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少年と勘違いされて

 教会の玄関前には、夕方の柔らかな光が差し込んでいた。

 ラピスは義手と義足の調整を終え、杖をつきながらゆっくりと歩いてくる。

「歩けそうですか?」

 アルトが隣で歩調を合わせる。

「うん。まだぎこちないけど……なんとかね」

 ラピスは苦笑しながら足元を見た。その表情には、どこか不安が滲んでいる。

「……帰る場所、思い出せましたか?」

 アルトがそっと尋ねると、ラピスは首を横に振った。

「やっぱり、何も。これからどうやって生きていけばいいのか……正直、不安でいっぱいだよ」

 その声は弱々しく、胸に刺さるものがあった。アルトは少し考え、そして静かに言った。

「……よければ、私の家に来ませんか?」

「えっ……?」

 ラピスは目を丸くした。

「迷惑じゃないのか? 君の家だろう?」

「迷惑じゃないです。

 これから貴重品も増えますし、防犯のためにも家に人がいた方がいいんです。

 今までも、近所の人の善意で生活してきましたし……」

 ラピスはしばらく黙っていたが、やがてふっと笑った。

「……そっか。じゃあ、お言葉に甘えようかな。

 なんだか弟ができたみたいで、ちょっと嬉しいよ」

 アルトは微笑ましそうにラピスを見た。

(……弟、ですか)

 ラピスが自分を少年だと思っていることに気づきつつも、訂正はしなかった。

(布団とベッドは新しくしないと……

 物々交換も便利だけど、そろそろちゃんと買った方がいいかもしれないな)

 そんなことを考えながら、アルトはラピスと並んで教会を後にした。



 翌日、アルトはカイ、ユナ、リオルの三人に昨日の出来事を報告していた。

 裏庭には初夏の風が吹き、木々の葉がさらさらと揺れている。

「ワイバーンが……大変だったね」

 ユナが心配そうに寄り添う。

「それで、ラピスさんを家に住まわせることにしたのか」

 リオルが腕を組んで言う。

「はい。行く場所がないみたいなので」

「でも……アルトの留守中、女性一人では危ないのでは?」

 リオルが真剣な顔で言う。

「ラピス、男性だよ?」

「……えっ?」

 リオルの目が大きく見開かれた。

「男性なら、世話するのが大変じゃないか?」

 カイが首をかしげる。

「身体強化の練習も兼ねて、いろいろ試すつもり。

 留守中は近所の人たちも助けてくれている。大丈夫。」

「いや、楽観視しすぎでは……?」

 リオルは頭を抱えた。

「アルトは中性的だけど、女性なんだからさ。

 成人男性に対しても、さ、もう少し警戒した方がいいよ」

 リオルが真面目に言う。

「でも、ラピス……弟ができたみたいって喜んでいたし。おそらく、私のこと少年だと思っている」

「……それはそれで問題では!?」

 リオルが本気でドン引きした。

 ユナが苦笑しながら言う。

「アルトは顔が整ってるから、どっちにしても気をつけた方がいいよ。

 変なことに巻き込まれないようにね」

「ユナがそんなこと言うなんて……」

 アルトは驚いた。

「ユナ、最近貴族の少年に言い寄られてたからな」

 カイがさらりと言う。

「そうなの。なんか、私たちも男女がどうのこうの言われる年齢になったみたい」

 ユナは肩をすくめた。

「初等部の貴族の少女たちも、アルトのこと噂してるぞ。

 獣を追い払った時の姿がどうとか……」

 リオルが言うと、

「やめてほしいよ」

 アルトはものすごく嫌そうな顔をした。

「長屋住まいだからスカート履かずに運動着で登校してるのが裏目に出たのかな……」

「お金が貯まったら、もう少し治安のいいところに住めばいいよ」

 リオルが提案する。

「私とカイの地元の近くに住む?」

 ユナが笑顔で言う。

「朝は飲んだくれのおっちゃんが転がってる時あるけどな」

 カイがぼそり。

「……それはそれで無理だ」

 リオルは頭を抱えた。

 アルトはふと思い出したように言う。

「ラピスさんの義手と義足がもっと良くなれば……用心棒になってくれるかもしれません」

「用心棒?」

 三人が同時に首をかしげる。

「助けた時、鎧を着ていました。騎士か冒険者だったのだと思うんだ。戦闘経験はあるはずだろうね」

「義手義足で戦えるのか?」

 リオルが疑問を口にする。

「それは今はわからない。けれどこれも試してみるつもり。

 ……リオルには、いろいろ助けてもらってるから、これについては仲介とかは頼まないよ、流石に。」

 するとリオルがふっと笑った。

「うちの親戚にね、腕が義手になって引退した騎士のお祖父様がいるんだ。もしラピスさんが用心棒になれるくらい回復したら……その技術、教えてほしいな」

 アルトは真剣に頷いた。

「……ええ。ぜひ」

 その返事に、リオルは少しだけ目を丸くした。

本作をお読みいただきありがとうございます。

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