試験中止と神殿の静けさ
教会の白い石壁は、戦いの余韻を吸い込むように静かだった。
冒険者テストの参加者たちは次々と運び込まれ、神官たちが慌ただしく治療に走り回っている。
アルトは怪我こそなかったが、返り血と極度の疲労でベッドに座らされていた。
ハリスが隣に立ち、腕を組んでじろりと見下ろす。
「……本当に大丈夫か?顔色悪いぞ。さっきの、絶対あとで来るタイプだろ」
「だ、大丈夫です。ちょっと疲れただけで……」
「“ちょっと”でワイバーンの首落とすやつがどこにいるんだよ」
軽口を叩きながらも、声には心配が滲んでいた。
アルトは苦笑し、視線を落とす。
少し離れた場所では、教官が参加者の一人に大剣を返していた。
しかし、返された大剣の大元には、深いヒビが入っている。
「すみません……私の扱いが悪かったせいで……」
アルトが慌てて駆け寄ると、大剣の持ち主は首を振った。
「気にすんなよ。あんな状況で助けてくれたんだ。むしろ礼を言いたいくらいだ」
「でも……私、あの、大剣を扱ったのが初めてで力みすぎたのかもしれません。火事場の馬鹿力というか・・・」
アルトが言い淀むと、教官が腕を組んで言った。
「ワイバーンが防御を破った瞬間、お前は無意識に身体強化の魔法を使ったんだろう。今は強く魔法を使った反動がきたんだろう」
「無意識、だったのですけれど……」
アルトは自分の手を見つめ、少しだけ眉を寄せた。
教官はそれ以上は何も言わず、ギルドへの報告に向かうため教会を後にした。
治療室が少し落ち着いた頃、アルトは近くの神官に声をかけた。
「……あの、ラピスさんのところに行ってもいいですか?」
「ええ、彼ならもう落ち着いていますよ。無理はしないように」
アルトは小さく頭を下げ、治療室を出た。
◇
ラピスの病室は、夕焼けが柔らかく差し込んでいた。アルトは、先ほどの慌ただしい空間と隔離されているように感じた。
義手と義足の調整を受けていたラピスは、アルトの姿を見るなり目を丸くした。
「アルト……?その服……血まみれじゃないか」
「あ、これは……ワイバーンの返り血で……」
「ワイバーン……?」
アルトは簡単に状況を説明した。
ラピスは黙って聞き、そして深く息を吐いた。
「……無事でよかった。本当に」
その言葉に、アルトは胸の奥が少し温かくなるのを感じた。
「ちょっと疲れただけです。慣れてますから」
「慣れてる……?」
ラピスはその言葉にわずかに眉を寄せた。
アルトは一瞬だけ言葉に詰まり、視線をそらす。
「昔、似たような訓練をしていたので……」
「……そっか。君が無事なら、それでいい」
ラピスはそれ以上は聞かなかった。ただ、穏やかな笑みを浮かべる。
「アルト。改めてありがとう。そろそろ日常に復帰できそうだ。」
「い、いえ……。治ったら、一緒にギルドへ行きましょう。もしかしたら、一緒に冒険者テストも受けられるかもしれません...いえ、義手や義足をはめたばかりなので無理はしてはいけませんが...」
ラピスは嬉しそうに頷いた。
「うん。楽しみにしてる」
病室には、戦いの喧騒とは無縁の静かな時間が流れていた。
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