テスト、ただいま混乱中
朝の空気は冷たく澄んでいた。
王都の外に広がる高原には、冒険者テストの受験者たちが集まっている。
アルトは教官と数名の受験者とともに列に並び、緊張した面持ちで周囲を見渡した。
その時、聞き慣れた声がした。
「おや、アルトじゃないか」
振り返ると、防災訓練の時に世話になったハリス・ウェイメスが手を振っていた。
いつも通りの軽い笑顔だ。
「……ハリス先輩。どうしてここに?」
「冒険者資格を取りに来たんだよ。就活に有利だからなー」
あっけらかんと言うハリスに、アルトは瞬きをした。
(……貴族が、冒険者に?)
必要ないのでは、と喉まで出かかったが、言葉にはしなかった。
教官が点呼を取り始める。
今回の受験者の中で、一番年下なのはアルトだった。
周囲の視線が、ちらりとアルトに向けられる。
胡乱な目。
「子どもが来ている」と言いたげな空気。
アルトは少しだけ肩をすくめた。
それを見たハリスが、わざとらしく大きく息を吸い込んだ。
「さて、調理の時間だね。火をつけようか」
次の瞬間、ハリスの手から、どっと火柱が上がった。
教官は声を荒げて言った。
「ウェイメス!火力を調整しろ!」
教官の首には冷や汗だろうか、暑いのだろうか、汗が流れていた。
ハリスはそれに適当に返答した
「はいはーい」
ハリスの魔法を見た他の受験者たちは口々にハリスの方へ関心を向けた。
「やばいぞあいつ……」
「なんであんなのが受けに来てるんだ……」
アルトは小さくため息をついた。
(気を使わせてしまったのかな…)
◇
午後、受験者たちは森へ入り、小規模な討伐試験が始まった。
ハリスがアルトの隣に歩み寄る。
「アルト、一緒にやろうか。俺が魔法で援護するよ。というか武器ってそれ?弓矢だよな」
「私は主に弓矢で短剣も使います」
「いいね。じゃあ、どう戦うか決めようか」
二人が作戦を話し合っていると──
グォオオオオオオッ
森の奥から、低く響く咆哮が聞こえた。
アルトは即座に顔を上げた。
(この音……ワイバーン!)
過去に聞いたことのある音だった。
次の瞬間、木々の間から複数のモンスターが飛び出してきた。
ハリスは周囲を見渡し、他の受験者が近くにいることを確認すると、魔法を展開した・
氷の槍が複数のモンスターを一度に貫く。
しかし、攻撃範囲から漏れたのであろう数体が、
アルトたちの方へ向かってきた。
アルトは弓を引いた。
放たれた3本の矢は、3体のモンスターの眉間に正確に突き刺さった。
残りのモンスターが迫る。
アルトは短剣を抜き、滑るように横へ回避しながら、首の下から上へ向かって刃を振り上げた。
アルトが通った後は、首のないモンスターからリンゴの皮を剥くように、毛皮だけが綺麗に剥がれ落ちる。
ハリスは近くのモンスターを凍らせながら、
アルトの戦い方を目を丸くして見ていた。
「マーティンに聞いていた通り、すごいな。君は」
その時、教官が負傷者を背負って駆け寄ってきた。
「お前たち!一旦退避するぞ!」
アルトとハリスは同時に言った。
「殿を務めます」
教官は倒れたモンスターたちを見て、短く頷いた。
受験者たちは森を抜け、高原へ戻った。
安堵の息が漏れる。
だが──
グォオオオオオオッ
先ほどより近い咆哮が響いた。
全員が振り返る。
真上を、ワイバーンが通り過ぎた。
ハリスが咄嗟に防御魔法を展開する。
「!?」
しかし、ワイバーンの体当たりで魔法の壁にヒビが走る。
アルトは近くの参加者の大剣に目を留めた。
「……私に剣を」
言われるがままに大剣を渡す参加者。
アルトは受け取った瞬間、ふらついた。
(……重い)
ハリスの貼った防御魔法の壁が砕ける音がした。
ワイバーンが鋭い速さで突撃してくる。
その瞬間──アルトの姿が消えた。
次に見えた時には、アルトはワイバーンの首元にいた。
ザシュッ
大剣が一閃し、ワイバーンの首が落ちた。
勢い余って、アルトは返り血を浴び、地面を滑って転んだ。
起き上がって振り返ると、血まみれになったハリス、教官、参加者たちが固まっていた。
「……あ、ごめんなさい……」
気まずそうに言うアルト。
しかし、教官とハリスは真っ先に駆け寄った。
「オフィーリウス!怪我はないか!」
「大丈夫か?思いっきり転んだな」
アルトは首を振った。
ハリスが魔法を使うと、全員が被った返り血が一瞬で消えた。
アルトはぽかんとハリスを見つめた。
(……魔法って、便利だな)
教官が深く息を吐き、指示を出した。
「テストは中止だ。全員、怪我人を運べ!教会へ退避する!」
高原に緊張が戻り、受験者たちは急いで移動を始めた。
アルトは大剣を近くにいた教官に渡し、静かにその後を追った。
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