長屋と貴族と教会と
放課後、アルトの案内でリオルと従者が長屋へ向かっていた。
細い路地、古い木造の家々、干された洗濯物。
リオルは思わず顔を顰めた。
「……アルト、君、ここに住んでるのかい?」
「はい」
アルトは淡々と答える。
リオルはしばらく黙り、アルトの所作や言葉遣いを思い返した。
「……君の話し方や立ち居振る舞いから、まさか長屋暮らしとは思わなかったよ」
アルトは首を傾げた。
「そう?」
「そうだよ。困ったことがあれば、もっと頼ってほしい。僕は君の友達なんだから」
アルトは少しだけ目を丸くした。
「……ありがとう、リオル」
その言葉に、リオルは微笑んだ。
◇
アルトが扉を開けると、
近所のおばさんが鍋をかき混ぜていた。
「あっ、アルトちゃん。
ご飯作ったからラピスさんと一緒に食べなさいね」
おばさんは振り返り──
貴族然としたリオルと従者を見て固まった。
「ひ、ひぇっ……!あ、あの……お、お茶……いえ、お水……?」
慌てふためくおばさんに、リオルは優しく微笑んだ。
「お気になさらず。僕たちはただの客です」
「そ、そうですか……じゃ、じゃあ……失礼しますね……!」
おばさんは逃げるように退出した。
リオルは部屋の奥に目を向けた。
布団の上に横たわるラピスを見て、思わず声を漏らす。
「……男性だったのか」
アルトは淡々と頷く。
「うん?そういえば、そうだね」
リオルは一瞬だけアルトを見て、従者に指示を出した。
「運ぶのを手伝ってくれ。慎重に」
従者は頷き、ラピスを抱え上げた。
◇
教会の白い石造りの建物は、長屋とは別世界のように静かで清潔だった。
アルト、ラピス、リオル、従者の四人が中へ入る。
「神官様、治療をお願いしたいのですが」
リオルが声をかけると、白衣をまとった神官が振り返った。
「承りました。こちらへ」
ラピスは治癒室に運ばれ、神官が手をかざすと、淡い光が広がった。
傷口が閉じ、血が止まり、ラピスの呼吸が落ち着いていく。
だが、右腕と右足は、そのままだった。
神官は静かに言った。
「欠損は……治癒魔法では戻りません。
記憶喪失も、回復は難しいでしょう」
アルトは小さく息を呑んだ。
リオルが続けて尋ねる。
「義手と義足は?」
「ご用意できます。
しばらくは教会で入院していただきますので、リハビリを行いましょう。」
ラピスはゆっくりと体を起こし、
アルトとリオルを見た。
「……助けてくれて、ありがとう」
アルトは首を振った。
「当然のことをしただけです」
リオルは微笑んだ。
「僕はアルトの助けになれたらいいだけだから」
ラピスは静かに頭を下げた。




