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記憶のない彼の名は

数日が経った。

アルトが煎じた薬草の匂いが、部屋に薄く漂っている。

布団の上で眠っていた男性が、ゆっくりと目を開けた。

「……ここは……?」

アルトは椅子から立ち上がり、水の入ったコップを差し出した。

「気がつきましたか。」

男性は喉を鳴らしながら水を飲み、しばらく天井を見つめていた。

「あなたは、森の川で血まみれで倒れていたんですよ。」

「川?」

「手足がなくなっていました。何があったんですか?」

そして、ぽつりと呟く。

「…ここは…俺は……誰だ?」

アルトは瞬きをした。

「覚えていないんですか?」

男性は首を振る。

「名前も……なぜあんな場所にいたのかも……何も……」

身につけていた鎧は破壊され、紋章らしきものはあったが汚れすぎて判別できなかった。

おそらく貴族のものだが、確証はない。

アルトは少し考え、静かに言った。

「……では、名前をつけてもいいですか?」

男性は驚いたように目を見開いた。

「名前を……?」

アルトは棚から青い石を取り出した。

光にかざすと、深い青が揺れる。

「ラピスラズリ。……あなたの瞳の色に似ていたので」

男性は自分の目に触れ、

そしてアルトを見た。

「……長いな」

「じゃあ、ラピスでいいですか?」

「……いや、まあ……いいけど……なんでラピスラズリなんだ……」

アルトは少しだけ首を傾げた。

「石言葉的な……?」

疑問形で返すと、ラピスは苦笑した。

「……よくわからないけど……ありがとう」

アルトは頷き、男性──ラピスの体を見た。

右腕と右足は、もう戻らない。

ポーションでも、欠損は治せない。

(……義手と義足が必要だ)

だが、どこに相談すればいいのか分からない。

鍛冶屋では無理だろう。

魔道具師か……?錬金術師……?伝手はない。

いや、もっと確実な相手がいる。

アルトは立ち上がった。

(……リオルに相談しよう)

ラピスの枕元に水を置いた。

「義手と義足を用意します。少し時間がかかりますが、それまでの間、寝たきりになってしまうかもしれません。」

「ああ。まだ起きているのは辛いから、その方が助かるよ。」

「食料は近くに置いておきます。食べられる時に食べてください」

「助かる。ありがとう。」

「お隣のおばさんが手伝いに来てくれるそうですから遠慮なく申し出くださいね」

本作をお読みいただきありがとうございます。

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