森の奥で出会ったもの
王都から少し離れた高原は、風がよく通る。
草が揺れ、遠くには森の影が見えた。
アルトは、腰に弓矢とナイフを帯びていた。
背中には小さなリュック。
素材を入れるための袋がいくつも括りつけてある。
(……薬草、魔物の皮、牙。
全部そろえれば、ナイフを打ち直せる)
足元の草を踏みしめながら、アルトは森へ向かって歩き出した。
森の入口は薄暗く、ひんやりとしている。
その中で──気配が動いた。
「……来た」
狼の姿をしたモンスターが四体。
低く唸りながら、アルトを囲むように広がった。
一体が飛びかかってくる。
アルトは一歩、横へ滑るように避けた。
その瞬間、空中でナイフを抜き、リンゴの皮を剥くような滑らかな動きで毛皮を切り裂いた。
着地と同時に、ナイフを逆手に持ち替え──投げる。
同時に弓を引き、三本の矢を放つ。
矢は三体の眉間に正確に突き刺さり、ナイフは一体の首元に吸い込まれるように刺さった。
刃が通り、首が落ちる。
静寂。
アルトはすぐに周囲を見渡し、気配を探る。
(……大丈夫。まだ来ない)
倒れたモンスターから素材を採取していく。
毛皮、牙、爪。
必要なものを手際よく袋に入れる。
ふと、手元を見る。
ナイフが血で濡れていた。
自分の手も、赤く染まっている。
「……」
呼吸が浅くなる。
胸が締めつけられるような感覚。
冷たい汗が背中を伝った。
(……大丈夫。これは、人の血じゃない。)
そう言い聞かせながら、アルトは森を後にした。
◇
時間が経ち、川の音が聞こえてきた。
アルトは膝をつき、手を水に浸す。
冷たい水で、何度も何度も手を洗う。
血が落ちるたび、川面に赤い筋が広がった。
ナイフも丁寧に洗い、布で拭き取る。
その時──
グルゥゥ……
カチ……カチ……
低い唸り声と、金属が石に当たるような音。
アルトはすぐに身構えた。
弓を握り、音のする方へ慎重に近づく。
(……モンスター?)
草をかき分け、沢を覗き込んだ。
そこにいたのは──
赤黒いものに覆われた“人”だった。
ぐう……と苦しげな声。
破壊された鎧が石に当たり、カチ……カチ……と音を立てている。
アルトは息を呑んだ。
慎重に沢へ降り、男性の体を引き上げる。
右腕がなかった。
右足も、膝から先がなかった。
赤黒いのは、血だった。
アルトはその場に膝をつき、
男性の顔をじっと見つめた。
呼吸が浅くなる。
胸が痛いほど締めつけられる。
(……まただ)
血の匂い。
欠損した四肢。
助けを求める声。
過去の記憶が、静かに蘇る。
アルトは震える手で、男性の脈を確かめた。
まだ、生きている。




