鍛冶屋視点
朝から火を焚き、鉄を打つ音が鍛冶屋に響いていた。
金属の匂いと熱気が店の奥まで満ちている。
そんな中、扉が静かに開いた。
「こんにちは」
小さな声。
振り返ると、初等部くらいの少年が立っていた。
生成りの長袖シャツに深緑のベスト、黒のレギンスに革のショートブーツ。
森に入る気満々の、実用的な私服姿だった。
そして、腰には“子どもには少し長いナイフ”が帯びられている。
店主は眉を上げた。
(……また妙な奴で来たな。いや、妙というより実用的すぎるか)
「子供か。今日はどうした?遊ぶもんはここにはないぞ?」
アルトは静かに言った。
「そろそろ……ナイフを買い替えようと思いまして」
店主は腕を組んだ。少しは付き合ってやろうか。
「悪いが、今は刃物が高い。
モンスターが搬入経路に出てな、鉱石が未納なんだ」
アルトは瞬きした。
「……鉱石が?」
「そうだ。物価高で鉱石の値段が上がってる。
刃物も当然、高騰してる。入荷は未定だ。騎士団がモンスターを倒すまで待つしかない」
少年は少し考え、腰のナイフを抜いた。
「……では、これを打ち直せませんか?」
店主は一瞬、胡乱げな目を向けた。
(子どもが……打ち直し?)
だが、ナイフを受け取った瞬間、表情が変わった。
刃は古い。
しかし、研ぎは丁寧で、使い込まれた跡がある。
(……この子、ただの子どもじゃねぇな)
店主は態度を軟化させた。
「坊ちゃん。モンスターと戦ったことはあるのか?」
アルトは淡々と答えた。
「あります」
店主は少しだけ目を細めた。
「……そうか。なら話は早い」
棚から一本のナイフを取り出す。
アルトのものと同等程度の質で、店の中では一番安いものだ。
「これをやる。その代わり、素材を取ってきてくれ」
アルトは首を傾げた。
「素材……?」
「薬草、魔物の皮、牙……子どもには少し多難だが、坊ちゃんの腕なら問題ないだろう」
アルトは迷わず頷いた。
「……わかりました。やります」
店主は満足げに笑った。
「ところで、坊ちゃん、名前は?」
「アルト・オフィーリウスです。」
「そうか。アルトか。いい名前だな。よし。気をつけて行けよ」
少年は礼をして、静かに鍛冶屋を出ていった。
扉が閉まると、店主は手元の古いナイフを見つめた。
(……あの子、何者なんだ?
子どもの手じゃねぇ。戦い慣れた者の刃だ。
名前はなんか聞いたことあるな……どこだったか)
火の粉がぱちりと弾けた。
店主は小さく息を吐いた。
「……妙な子だな、まったく」




