薄暗い学園長室で 2
訓練が終わった直後、
リーダーたちと初等部の担任、リーダー会議に参加した先生は、学園長室へ呼び出された。
重厚な扉が閉まると、室内の空気は一気に重くなる。
学園長は机の前に座り、深いため息をついた。
「……さて。
今回の“火災再現訓練”について、説明してもらおうか」
机の上には、昨日のリーダー会議で提出した資料と──
担当教師のサイン入りの計画書が置かれていた。
初等部の先生は青ざめ、教頭は頭を抱えている。サインした先生は冷や汗をかいている。
「まさか……本当にやるとは……」
「いや、サインは……したが……」
学園長の視線が、アルトに向けられた。
「アルト・オフィーリウス。資料を作成したのは君だね。
君は、なぜこんな大掛かりな訓練を?」
アルトは一歩前に出て、静かに言った。
「むしゃくしゃしてやりました」
室内の空気が止まった。
「む、むしゃくしゃ……?」
学園長は資料を落としてしまった。
初等部の先生が崩れ落ちそうになる。
教頭は頭を抱えたまま固まった。
リーダーたちは笑いを堪えている。
「反省はしていますが、後悔はしていません。」
だが、アルトは淡々と続けた。
「形だけの訓練では意味がありません。“本物に近い状況”でなければ、命は守れません」
学園長は眉をひそめたが、何も言わない。
その代わり、マーティンが口を開いた。
「学園長。今回の訓練で、はっきりしたことがあります」
「……何だね?」
「先生が逃げると、生徒は混乱する。
実際、中等部と高等部で“逃げた教師たち”がいました」
先生たちが「ひっ」と声を上げた。
教頭は腰が抜けてしまった。
マーティンは続ける。
「しかし、リーダーたちは冷静に動き、全員を避難させることができました。
これは“成果”です」
中等部のリーダーも頷く。
「先生が逃げたら、誰が生徒を守るんですか。
今回の訓練で、それがよくわかりました」
他の高等部のリーダーも続ける。
「逃げた先生が悪いとは言いません。でも、現実として“逃げる人”はいます。
だからこそ、訓練が必要なんです」
学園長は腕を組み、深く息を吐いた。
「……なるほど。君たちの言い分は理解した」
そして、静かに告げた。
「今回の件は……口頭注意で済ませよう」
初等部の先生が安堵の息を漏らす。
教頭は「助かった……」と呟いた。
学園長は続けた。
「ただし──
今後は必ず教師側と連携し、勝手に規模を拡大しないこと。いいね?」
「はい」
リーダーたちは一斉に頭を下げた。
「では、退出してよろしい」
リーダーたちは礼をして、学園長室を後にした。
◇
扉が閉まると、学園長は深く椅子にもたれかかった。
「……どうしたものか」
教頭が弱々しく言う。
「生徒の前で逃げた先生がいる……
これでは信頼が……」
学園長は額を押さえた。
「生徒からの信頼がなくなってしまっている……
これでは、我が学園の信頼がなくなってしまう。どうすればいいのか……」
静かな学園長室に、重い沈黙が落ちた。




