第14話 教会の謁見と隠された思惑
第14話をお届けします。
教会の私的な謁見を通じて、上層部の冷たい思惑が少しだけ見え始めました。
アリアの浄化限界と、二人の絆の脆さがより強調されています。
これから物語は、期待と利用の狭間で揺れる二人を描いていきます。
シリアスな心理描写をお楽しみください。
王都セルフィア到着の翌朝。
大聖堂の最奥、浄化の間に呼び出されたディオンとアリアは、静かな緊張に包まれていた。
白い大理石の床に跪くように座らされた二人を、高位司教ガルドが穏やかな微笑みで迎えた。部屋にはガルドの他に、数名の上級聖職者と王国騎士団長レオン・ヴァイスが控えていた。
「英雄ディオン・ヴァルデン卿、聖女アリア・ルミナ殿。改めて、ご苦労様でした。黒霧の谷での勝利は、王国にとって大きな転機です」
ガルド司教の声は優しく響いたが、その目は二人を「道具」として値踏みするような冷たさを隠しきれていなかった。
アリアは銀髪を丁寧に整え、白い聖女衣装の裾を正しながら、弱々しく頭を下げた。顔色はまだ回復しておらず、青みがかった金色の瞳に疲労の影が濃い。
「司教様……お褒めいただき、光栄です。私にできる限りのことをいたしました」
ディオンは黒い長衣のまま、腕を組んで立ったままだった。灰色の瞳はガルドを冷たく見つめ、感情を殺した声で言った。
「……褒め言葉は不要だ。俺の呪いがどうなっているか、率直に聞きたい」
ガルドは微笑みを崩さず、ゆっくりと答えた。
「英雄卿の力は、予想以上に強力でした。黒霧の谷の眷属を一掃した報告を受け、民衆の期待はさらに高まっています。しかし……呪いの進行については、少し懸念があります」
レオン騎士団長が横から口を挟んだ。
「聖女殿の浄化で抑えられているはずだ。問題はないだろう?」
アリアは慌てて口を開いた。
「はい……私、精一杯浄化の力を使いました。ディオン様の呪いを、一時的にでも抑えられたはずです……」
その瞬間、アリアの体がわずかに揺れた。昨日からの疲労が限界に近づき、立っているのもやっとだった。
ディオンはすぐに彼女の肩を支え、淡々と言った。
「アリア、もう座れ。お前は限界だ」
ガルド司教はアリアの様子を観察しながら、静かに続けた。
「アリアよ。君の浄化の力は確かに優秀だ。しかし、英雄の呪いは古くから続くもの。根本的な解決は難しい……あくまで『延命』に過ぎないということは、理解しているね?」
アリアは唇を噛み、弱々しく頷いた。
「はい……理解しています。でも、ディオン様が苦しむ姿を見ているよりは……少しでも力になりたいんです」
ガルドの目がわずかに細くなった。
「それは立派な心がけだ。しかし、聖女として君にはまだまだ大きな役割がある。今後はさらに強い災厄が予想される。英雄卿の力が強まるにつれ、君の浄化もより多く必要になるだろう」
ディオンは灰色の瞳でガルドを睨み、低い声で言った。
「お前たちは、アリアを消耗品として使おうとしているのか? 俺の呪いを抑えるために、彼女の希望まで削って……それで満足か?」
部屋に重い沈黙が落ちた。
レオンがため息をつき、仲裁するように言った。
「英雄卿、言葉が過ぎる。皆、王国のために最善を尽くしているだけだ」
ガルドは穏やかな笑顔を保ったまま、しかし声に冷たい響きを加えた。
「英雄卿。君は救世主として選ばれた血統だ。民衆は君を『希望の光』と崇めている。その期待を裏切るようなことは、許されない。聖女アリアも、同じく神に選ばれた存在。二人で力を合わせれば、どんな災厄も乗り越えられるはずだ」
ディオンは小さく息を吐き、淡々と告げた。
「希望の光……その光が、いつか闇に変わることを、お前たちは知っているはずだ。俺が英雄に近づけば、世界を救うはずの力が、世界を壊す方向へ変わる。それがヴァルデン家の呪いだ。アリアを巻き込むな」
アリアはディオンの袖を弱々しく掴み、震える声で言った。
「ディオン様……私は、貴方様の側にいたいんです。一人で苦しまないでください。私も……一緒に耐えたい……」
その言葉に、ガルド司教の目がわずかに光った。
「素晴らしい絆だ。まさに救世主に相応しい。では、次の任務の準備を進めよう。詳細は追って連絡する」
謁見が終わると、二人は控室に戻された。
アリアはベッドに腰を下ろし、ディオンがその隣に座った。
アリアは弱々しく手を伸ばし、黄金の光を灯そうとした。しかし、光はほとんど出ず、すぐに消えてしまった。
「ごめんなさい……ディオン様。また……力が出なくて……」
ディオンは彼女の手をそっと握り、淡々とした声で言った。
「もういい。お前は十分にやった。アリア……お前の光が薄れているのが、俺にもわかる。俺の呪いのせいで、お前まで壊れかけている」
アリアはディオンの手に自分の額を寄せ、静かに言った。
「壊れても構いません……貴方様が一人で耐えるよりは……私も、貴方様と一緒に……」
ディオンは灰色の瞳を伏せ、苦い思いを胸に押し込んだ。
(この絆が、いつか最大の裏切りを生むことを……お前はまだ知らない)
王都の朝は華やかだったが、二人の胸には、すでに深い影が落ち始めていた。
教会と王国の思惑は、徐々に明確になりつつあった。
救世主であること自体が呪いであることを、二人はこれから、身をもって知ることになるだろう。
第14話、いかがでしたでしょうか。
教会と上層部の本音が少しずつ露わになり始めました。
ディオンの警戒心とアリアの献身が、ますます切なく感じられる回になったかと思います。
次回は、次の任務の話や、二人の関係の変化を描く予定です。
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