告白
「私。マリじゃないの」
マリちゃんがぼそりと呟いた。小さな声だったけれど、鮮明に聞き取れた。
「は?」
自分の声とは思えないほどの低い声が出た。
何を言っているのだろう。現実が処理できない。正面窓口に見える時計の針が、無情に動いているのが目に入る。
「マリは死んだの。自殺したの。逸くんと一緒に見に行ったマンションで」
マリは死んだ。
自殺。
ぼくと見に行ったマンション。
つまり苺花ちゃんが事故にあったマンション。
胸の奥から沸々と何かが湧き上がってくる。怒りでもない、悲しみでもない、莫大な形のない不安が襲い掛かってくる。わからないという感情の恐怖がぼくに襲い掛かってくる。
「私はマリの双子の姉の茉那」
ぼくを見てくる人は、ぼくと一緒に写真に映っていた長い髪を持っていない。それに、写真の中で見た女の人より胸が小さい。
ぼくは、騙されていた?
ぼくの脳内に丸がつく。最悪な形でつじつまが合い、答え合わせされる。
津波のようにやってくるぼくの荒れた感情。思わず手が出そうになった。
「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき」
物理的攻撃をなんとか言葉で自制した。
ぼくは今の状況がわからなくて怖いのだ。
目の前の人物が、誰かわからないから怖いのだ。ぼくの恋人であったマリちゃんが死んだ事実がわからないから怖いのだ。
なんとか自分の中にあふれ出る感情に正しい理由をつけていく。
「ごめんなさい」
自分をマリちゃんだと嘘をついていた茉那さん(?)は、ひたすらに謝って来た。まるで、被害者になりきろうとする加害者だ。同情を煽って、自らの罪を正当化しようとするずるい人間だ。
ぼくの今の胸に溢れる感情が、何だかわからない。ただ、誰かにぶつけたい。
そう思ったとき、開いた自動ドアの外から人が走ってきた。
「みなさん。何をしているのですか」
古川先生だ。
「注目を浴びていますし、こんな出入り口の近くで迷惑です。必要なら個室の手配をするので、そちらで話してください」
表情は優しいが、口調から怒っていることが伝わってくる。
ぼくたちは何の相談もせず、古川先生が手配してくれた個室の面会室に行くことになった。ぼくだけではない、みんなそれぞれの言葉がまだ不十分だった。きっとみんなそう思っていたから、何も言わず部屋に入った。
しんとした冷たい空気を囲んでいる中、古川先生が場を作ってくれることだけが救いだった。
「みなさんだけで話し合いされますか。それとも第三者のぼくは必要ですか」
「古川先生。いてください」
ぼくは即答した。
ぼくを制御できる人間が、ぼく意外にほしい。ぼくがどうしようもなくなったときに、古川先生なら止めてくれるはずだ。そう思った。
ぼくの意見を苺花ちゃんも茉那さんも否定しなかったので、話し合いが始まった。丸い形をした机の周りに座る。
ぼくの隣には苺花ちゃんと古川先生が座って、ぼくの目の前に茉那さんが座った。
「まず、どうして茉那さんは嘘をついたんですか」
テーブル越しにいる茉那さんに尋ねる。
昨日まで隣で寝ていた関係だと言うのに、今はこれでも近いと感じる。
「妹のことが知りたかったんです」
茉那さんは第一声にそう言って、さっきよりは落ち着いた様子で話を始めた。




