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「よく分かりませんが、承知しました。あなたのそういう表情は幾度と無く見てきました。そして、その顔をする時は大抵良くないことが起こる時です」
ユースティスの眼とした瞳に見つめられ、アルマリアは行動に素早さを増す。
彼はすぐさま地面にへたり込んでいた村長を抱えてその場から離れる。
四人は無事に無人に近寄られることも無く離脱に成功した。
「すまないな村長。少し踏ん張ってくれ」
村長を抱えて走るユースティスが申し訳なさそうに言った。
「一体……、何があったというのですか?」
ユースティスにおんぶされていた村長は、先程の勝利目前が嘘のように汗を垂れ流して逃げているユースティスの姿に苦悶する。
状況の一変に心配そうな瞳で見つめ質問してくる。
その村長の口からは吐血している。
どうやら彼の体力も限界に限りなく近いようだ。
一刻も早い治療が必要だが、先程の光景を見た今のユースティスにそんな余裕はなかった。
走っている最中に、土煙の隙間から僅かに見えたその光景を思い返す。
確かにあれは見間違いなどではなかったはずだ―――
脳裏に嫌な記憶が蘇る。
「詳しい話は後にする。今はとにかく逃げるほうが効率がいい。でなければ、今よりもっと激化した死を争うことになる」
「……ッ」
空気が張り裂けそうになるユースティスの物言いに、何やらただならぬ雰囲気を感じ取った村長は黙って頷いた。
「おいおい‼どこ行くんだよ‼俺を置いてくなよッ⁉」
三人が一斉に駆け出したのを見て、それまで呆然と立ち尽くしていたロンドが慌てて駆け付け三人に追いついた。
彼は状況が一切分からないまま取り合えず三人に続いて走っていた。
四人は一目散に無人から背を向けて走り出す。
残りわずか数体を残しての突然の離脱。
コード持ちとしてはありえない状況ではあるが、今回に限っては仕方ないことだとユースティスは割り切る。
逃げていなければ今頃一体どうなっていたか。
想像するだけでもおぞましい。
彼の指示に従って逃げること数分―――。
最初に走りを止めたのはユースティスだった。
彼はゆっくりと走るスピードを落とすと、歩幅を整えて歩き出した。
やがて、抱えていた村長を降ろすために立ち止まった。
他の三人も彼に続いてゆっくりとスピードを緩めて足を止める。
一体何があったのか。
早速問いただす。
「一体どうしたというのですか?」
「そうだな。何があった?」
アルマリアとロンドがユースティスの行動に対して質問を投げる。
二人に続いてアリアもまたユースティスを見た。
あまりにも咄嗟の行動だったので三人は、戸惑いを隠せないといった様子だった。
真剣な眼差しで見つめてくる三人に、見つめられたユースティスがゆっくりと口を開いた。
「状況的にかなり苦しい展開になりそうだったんでな。荒々しい立ち回りだったが撤退を優先した」
淡々と述べるユースティスに、三人ははてなマークを頭に浮かべる。
「先程の砂埃の正体が無人の群れだったのは理解出来たな?」
「それはまぁ、見た瞬間分かったな」
ロンドが頷く。
確かに自分が見た限りでは無人に違いなかっただろう。
「あの無人の群れ事態に然したる問題はない。いや、すまない……言い方が違うな。数が問題なのではないということが言いたい」
「なんだと?あの数はさっき戦っていた時とあまり変わらなかったからてっきりそのせいだと思っていたが……」
「違う。本当に恐ろしいのはそこではなかった……。あの群れには異形なる無人が潜んでいた」
「異形なる無人?」
自分が見た中では特ににそういったことには気が付かなかったが……とロンドは自身の記憶を遡ってみる。
アリアとアルマリアは黙って彼の話に耳を傾けた。
「異形なる無人だ。しかも、ただの無人じゃない。通常の無人は白色に六本足が特徴的な姿だが、さっきいた無人の群れの中に数体だけ―――黒色の無人がいた」
「黒色だと?俺の出会ったものはほとんどが白だったが、黒なんてのは初めて聞くな……」
「そうだろうな。恐らく滅多に見ることはない。何せ通常ではお目にかかることの出来ない異形だ。
「なるほど。だから兄ちゃんは異形と言ったのか」
「強さ的には白色の無人より遥かに強いと考えるのが妥当だ。恐らくあの群れのボス―――親的存在に該当するだろう」
そこまで聞いてようやくユースティスの行動の意味を知ることが出来た。
今自分達が生きているのは彼の賢明な判断力が生きた証拠だろう。
だが―――
「おいおい、どうするんだよ。さっきの群れより厄介ごとが一つ増えたってことじゃねーか。打ち損じしているのも何体かいたしよ……」
ロンドは一つ懸念材料が増えたことに嘆いた。
「そうだ。先程同様恐らく簡単にはいかない」
「私達の体力的にも厳しいですね」
四人の体力は空っぽに近かった。
思ったより戦闘で消費した分が大きかったようだ。
これに加えて先程と同等の戦闘を行なえるかと言われれば正直なところ不明である。
逃げる体力は備わっている。
しかし、これから先の戦闘を行えるかと言えば、正直厳しい。
だが、逃げることすら叶わないだろう。
何故ならここには一人。




