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10章 交差する戦記

ユースティスも彼の攻撃によって体勢を崩していた無人が起き上がったのを確認すると、無人のふところに入って一閃加えた。


紳士の漆黒の剣が無人の体を破壊していく。


攻撃を終えたユースティスは一歩無人から離れて距離を取る。


頑丈な体を持つ無人でも、大敵であるマグナタイトで包囲されたこの街では本来の力を発揮出来ていないのか。


幾分かマシな戦いが出来ていると言える。


ユースティスとアルマリア二人が無人と対等に渡り合っている中で―――


「おりゃぁぁあああああああ――――‼」


二人とは対照的に無人に接近戦で挑み、簡単には空かない懐に迷わずに入っていくロンドの姿があった。


彼は、武器を片手に無人の鋭い攻撃を躱しながら、空いた隙間についばんでいった。


苦しくうめく無人に怒涛の追随を与えていく。

彼の神速にも近しい鋭い攻撃の餌食となる。


かの圧倒的な力を見せびらかせる。


伊達だてに年は取ってねぇぜ‼」


他の三人より年上の彼は、三人の中で一番年を取っているのも関わらず、その老いすら感じさせない動きで無人を狩っていった。


「嬢ちゃんの方は大丈夫か?」


そんな彼は、既に自らの勝利を確信して一人の少女であるアリアの姿を探した。


視線を張り巡らせてアリアの姿を探す。


くるりと体を一回転させて避けながら、視線を張り巡らせて捜索する。


すると、少女は視線の先で必死に無人の攻撃を身に受けつつ対処していた。


「うくッ―――」


辛うじて攻撃を手に持つか細い武器で一心に受けている彼女の勇姿が目に入った瞬間、落ち着いていられなくなる。


「くそッ‼嬢ちゃん一人には荷が重いか―――?」


先に映る光景をひやひやしながら見つめる。


「前はピンチの時倒してくれたが……、あの時は兄ちゃんと姉ちゃんがいたからな……」


そう。

彼女は今一人で戦っていた。


そのことにロンドは、彼女の付き添いであるあの二人がいなければ、単体での戦闘は辛いと思っていた。


「懸命に戦っている嬢ちゃんには悪いが……、さすがに手を出さないわけにはいかないぜ」


そう言って、ロンドは手を貸そうと一歩前に足を踏み出した。


しかし――――


「手出しは無用だ」


いつの間にか自分の右隣にいたユースティスに声で制されて、その動きを止める。


「……なんだって?」

「手は出すなと言ったんだ。あれはお嬢様の仕事だ」

「だがよ。見る限りでは随分と苦戦している。助けに行かなきゃ、大変なことになるかもしれないぞ?」

「それでも俺達は黙って見ていることを優先する。そうでなければ、この先に幾度となくある無人との戦闘にいつまで経っても慣れないだろう」


ユースティスの頑固とした態度に黙って聞いていたロンド。


だが、彼の強く光る瞳にしばし見つめられて無言の威圧に訴えられて仕方なく渋った。


「わーったよ。嬢ちゃんの無人には手を出さない。その代わり、俺が危険だと判断したら勝手に動くぜ?」

「それについては問題ない。俺とアルマリアは既に戦闘を終えている。あれ以外の無人は既に消失している」


ロンドはちらりと辺りを確認すると、彼の言う通りこの場にいる無人の姿はアリアの目の前にいる一体を残して全て消滅していた。


少し離れた場所にいるアルマリアと言えば、凛とした佇まいでひっそりとアリアの様子を伺っていた。


手を前に添えて暖かな目で見守る彼女の姿にロンドは、もはや何も言うことはなかった。


彼もまたアルマリアから視線を外して、戦闘を行っているアリアの様子をじっと見つめるのであった。


「うくぅ……ッ‼」


無人の攻撃を受けて呻き声を上げるアリア。

小刀を握り締め対峙している彼女の勇姿に、ロンドは一つの疑問が浮かぶ。


隣で黙って見ているユースティスを一瞥すると、彼は胸の内に引っかかっていた疑問をぶつけた。


「兄ちゃん。一つ聞いていいか?」

「なんだ?」

「どうして嬢ちゃんは――――初めから力を使わないんだ?」


ロンドの視線の先にいるアリアは、コード持ちでありながら、力を使わずに腰に備えていた小刀で戦闘を行っていた。


その異様な光景にロンドは先程から違和感を覚えていたのだ。


彼の質問にユースティスはちらりとロンドを見る。


そして、アリアが小刀で必死に無人からの攻撃を受け流していると、ユースティスがポツリと呟いた。


「そうだな……なぜ使わないか。それは簡単な話だ。お嬢様はまだ力のコントロールが上手く出来ない」

「コントロールって……、力を使うのに精密さが必要なのか?」

「それもあるが……、簡単に言ってしまえば、まだ未熟な体が付いていけていないだけだ。コード持ちだからと言って、誰もがすんなり扱えるような力ではない。それこそ幾多の試練と洗練せれた鍛錬を超えた先にコントロールする力が備わってくるということだ」


そこまで聞いてロンドにある違和感が芽生えた。


「なら、俺を助けた時のあれはなんだ?確か……力を使っていたような――――」


そう。

確かに彼らに初めて会った時、アリアは力を使っていた。


その記憶が確かなら、使えないということはないはずだが……


「あれは、たまたま制御に成功しただけの話だ。本来はあんなにうまく扱えないはずだ」


だが、継いだ彼の言葉になるほどとロンドは思った。


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