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「ざっと百人くらいでしょうね。満足のいく生活が出来ていない飢えた人間。他の街からわざわざこんな辺境の地まで足を運ぶ方々に恵んであげました」

「その百人は外から来たということだな?」

「そうですな。まぁ、最も……やはり外という世界は大変危険な場所なんでしょうね。そのうちの大半は二度とうちには来ませんでしたよ。何処かでのたれ死んだのでしょうな……」

「ゲスが……。そちらが本当の顔か……」

「何とでも言ってください。最後まで生きていた方が正しい世界なのですから」

「お前のやり方が正しくても、考えていることは間違っている」

「他に正しい方法があったとでも言うのですかな?私にはこの方法しか思い付きませぬ」

「模索しなければ、辿り着けないだろうな……到底」

「ならば、私が間違っているという考えは今の所捨てたほうがよろしいですな。証明出来ないのですから」

「……」


老人の言い分は正しかった。

自分達が生き残るために選んだ道なのだから、他の人間がとやかく言える立場ではないと分かっている。


だがーーー

分かりきっているからといって、そう簡単に認めるわけにもいかなかった。


これを認めてしまえば、世の中にある数多の罪を認めてしまうことと同義であるからだ。


そうなれば、自分も大概目の前にいる老人と一緒になる。


そんな気がして嫌気が指す。

だから、ユースティスは否定する。


言葉には出なくとも、その考えは間違っていると思うから。


他人の意思ではなく、自分の意思を尊重するという。

ごくごく普通で当たり前の考えをユースティスは持っていた。


そうして二人が互いに火花を散らしながら意見をぶつけているとーーー

不意に扉の外から慌ただしい足音が聞こえて来て、三人は一斉にそちらを向いた。


数秒後、重い扉を開けて一人の男が息を切らしながら入ってきた。


『はぁ……‼はぁ……‼』

「何事だ?」


その見覚えのある男に村長は、目を窄め問いただす。

彼は村長に気が付いて近づくと、男は顔を真っ青にして答えた。


『無人が……ッ、無人が現れました‼︎』


その言葉に村長は激しく狼狽する。

男の焦りの顔がユースティスとアリアの目に飛び込んだくる。


「馬鹿なッ‼何故無人が⁉」


状況が理解出来ないといった様子で村長は目を見開いていた。


彼らの慌てふためく姿を目撃していたユースティスが口を開いた。


「簡単なことだ」

「何ですと?」


口を挟んでくるユースティスに村長が睨んで牽制した。

だが、そんな睨みもユースティスには通用しない。


「俺達の使用している武器が、何故無人を倒せるのか?」


彼は詠唱を唱えると武器を出して見せる形で問いかけた。


「……対無人用に作られているからではないですかな?」

「そうだ。だが、それはあくまで武器として使用しているからであって、他の物として使えば当然別の代物となる。本来の効力など発揮しない」

「ありえない……ッ‼︎ならば、なぜ今までーーー」

「所詮は延命治療に過ぎなかったということだ。か細く頑張っていたようだが―――ようやく効力が切れたと考えるのが筋書きだろう」

「なんたる不運……」


落胆の色に染まる村長に彼は冷たい目をして言った。


「何が不運だ。こうなることくらい簡単に予想がついただろうに。その事実に目を背けているからこうなるんだ。自業自得と言うんだろうな―――。こういうのを……」


彼は呆れ返る。

事実から目を背けた人間の末路など、いずれ形としてなる境遇に過ぎないというのに。


とどめを刺された村長はそれ以上言葉を紡がなかった。

自業自得の末の末路が悲惨な結果になったことに、当然の域だと思って見つめ続ける。


沈黙の老人に何も言うことが無くなったユースティスは、村長から視線を外すとその場から離れて呆けているアリアに言った。


「もうここに用はないな。俺達は無人を倒しに行く」


その言葉に落胆していた村長は顔を上げた。


「———何故ですか?」


問いかけてくる老人の顔は驚きが隠しきれないといった様子でユースティスを見つめる。


「……」

「この光景を見て、尚―――救いの手を差し出し、私達を救うというのですか?」

「別に罪を犯した人間に救いの手を差し伸べるわけじゃない。俺達はただ無人が現れたから行動に移し狩るだけだ。そこに慈悲はない。あるのは使命感だけだ……だからこそ、無人を倒しに行く」

「……」


村長は彼の温かみのある言葉に声が出なかった。


不快感を煽った自分達にそれでも―――

この街に現れた無人を狩ろうとしてくれていることに、感謝の念すら口から紡がれることはない。


そこにあるのはだだ無音だった。


あまりの出来事に彼自身言葉を出すのに労力が必要であった。


それほどに目の前にある事象が簡単に受け入れられなかった。


「これは偽善でもなく、慈悲でもなく、救いの手でもない。自分達のやるべきことの中にたまたま街を救うという仕事があっただけだ」


冷たい目で彼は言う。


だが、村長にはもう彼の冷たい瞳を感じられなかった。


真のある言葉に確かに彼の心があったからこそ。


ユースティスという人間が分かったからこそ、村長は言葉が出ない。


後に残った無音が何よりの肯定であった。

そうして彼はアリアを連れて地下を去っていく。


勇敢ある彼の背中が村長の瞳に映り込む。


重たい音が一つ響き、後に残された村長はしばらくじっとその場から動くことはなかった―――。

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