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『……悪いが、そんな怖い顔されても知らないぞ』
「……そうですか」
指摘されたアルマリアは、すかさず口元を手で抑えて隠す。
(顔に出てましたか。これは失念……)
うっかり出してしまった表情を目の前にいる男に見せてしまうなんて……と、不覚に感じた彼女が視線を逸らしてみせる。
そのアルマリアの引きのよさに男は怪訝な顔をしてみせた。
『なんだ?随分とあっさりしているな』
男は怪しげにアルマリアを見つめながら舐め回すように観察する。
対して彼女は涼しげな顔をして答えた。
「ええ、何分こちらも実物を知らないので、万が一本当のことを答えられても分かりませんし、間違ったことを言われてもそれが本当に正しい情報なのかどうか。元より私には分かりません」
『なんじゃそりゃ……』
呆れ返って男は目の前の女性を見る。
凛とした態度。
ただそこに立っているだけなのに彼女の美しさが強調される深々とした風貌に思わず見惚れてしまう。
彼女の済ました態度から嘘はついていないようだ。
商人の男は冷やかしかと疑いをかけていたがその線も無さそうだと判断した。
何故なら意味もなくやるような女性には見えなかったからである。
商売人にとって客を見極めるのは仕事の一つでもある。
故に客が来れば、その人がどういう人間なのかを疑いをかけてから真っ向に挑まなければならない。
売れる人間なのか。
売れない人間なのかを。
その常に人を見ていた長年の観察眼から成される所業とでも呼ぶべきだろうか。
目の前の女性からは冷やかし特有の匂いが感じない。
だから、男は目の前の淑女の疑いを解いた。
そうしてメイド服姿に身を包んだ女性を見つめていると、ふと彼女は視線を切ってその場から立ち去ろうとする。
「それでは失礼しました」
一礼したアルマリアが男から背を向けて立ち去る。
その美しい後ろ姿に男は三度見惚れてしまう。
『どうした?惚けた顔して』
淑女の背中が見えなくなると同時に、男の様子を傍目で見ていた仲間の商人が惚けた顔して一点を見つめているのを見て尋ねてきた。
男より少し若い青年が気さくに話しかけて来るのに気付いていないのか。
男はいつまでもいつまでも女性が去った方角を見つめていた。
青年は呆れて物も言えなくなる。
何やら会話をしていたのは聞こえてきたが、なんの内容を話していたのかまでは聞くことが出来なかった。
非常に気になる内容ではあるが、今は商売没頭するのが先決であると判断して青年は男を無視して仕事に取り掛かった。
そうして男達が自らの商売道具に手をかけている中ーーー。
立ち去ったアルマリアは背後に視線を浴びながら次を目指した。
情報詮索を行うために次なる人を目指した。
視界を張り巡らせて人を探していると、アルマリアの視界に一人の女性が入って来る。
女性は買い物をし終えた帰りなのか両手に荷物を抱えてこちらに向かって歩いて来る。
重たそうな荷物を涼しげに持つ女性に目をつけたアルマリアは静かに彼女に近付くと声を掛けた。
「すみません、少々お話よろしいですか?」
優しく耳に通る声で言う。
すると、アルマリアの存在に気が付いた女性がこちらに視線を向けてきた。
『ん?あたし?どうかしたの?』
フラットな雰囲気を持った女性が優しい瞳を向けてアルマリアを見つめた。
女性が立ち止まったのを見てアルマリアは早速本題に入った。
「手短にお聞きしますね。この街に地下に通づる建物とかありますか?」
単刀直入に聞き込みをする。
女性が荷物を持っているのであまり時間を取らせたくないと思ったアルマリアの行動だ。
同じ買い物をする人間なら一目見れば分かる。
彼女が持っている量は尋常じゃない。
それこそ両手に一杯で手が塞がっている状態にも関わらず視界もあまり良好ではないと言える。
この状態で一体どれほど歩いたのか知りもしないが、恐らく彼女的には早く帰路に着きたいところ。
それをいち早く察知していたアルマリアだからこそ感じ取れた。
これがもしユースティスならくどくど回りくどく言っていて女性を困らせていたかもしれない。
アルマリアの質問を受けた女性が数秒固まると、やがて口を開けて答えた。
『んーごめんね。あまり他所の建物知らないんだよね』
「他所?」
『そう。私ここの人じゃないから分からないんだ、ごめんね』
そう言ってアルマリアに謝罪する。
だが、アルマリアは困惑していた。
ならば、彼女が手に持っている大量の荷物を一体どこに運ぼうというのだろうかと。
「失礼ですがどちらから?」
『ノースブルってところからだよ』
ノースブルという単語を聞いた瞬間、アルマリアの顔が強張った。
(ノースブル……ッ。聞いたことがある……‼︎)
その街は突如現れた無人によって甚大な被害を受けた街の一つである。
街のほとんどは壊滅状態で今や人っ子一人いないと言われている荒廃した街。
そこから来たという女性だが、ホルノマリン街からノースブルまでは十キロはくだらないと知り合いから聞いていた。
まさか、歩いてここまで来たのだろうかと問いたくなったが、ここは立ち話をしている時間さえ惜しいだろうと思っただろうと思ったアルマリアが早々に視線を切って去ろうとする。
「そうですか。遠いところからわざわざすみません」
『気にしないでよ。私いつもやってることだし』
その言葉に耳を疑った。
(いつも……)
毎日往復二十キロくだらない道のりを歩いているというのか。
この女性は一体どれだけタフなんだろうかと痛感する。
自分が今まで会ってきたどの女性よりも勇敢かもしれない。
勿論自分を加えて……。
恐ろしささえ感じたアルマリアがそそくさと立ち去ろうとしたその時ーーー




