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「ねぇ、どうして……。どうして宿屋を始めようと思ったの?」


アリアは不思議そうな瞳で彼女を見つめた。

自分と同じ年の彼女が、どういう経緯で宿屋を始めようと試みたのか。


どうしても聞いてみたくなった。

彼女はこちらの問いに反応し、しばし黙っていた後、応えるために口を開いた。


「最初は……、心を落ち着かせるために料理を作り始めたんです。私、本当は人と関わるのが苦手だったんですよ」

「そうなのッ⁉︎全然見えないけど……」

「ふふっ、今はだいぶ慣れてきましたからね。想像も付かないと思います。でも、本当のことなんです。人と関わるのが苦手で、会う人に声をかけられる度に逃げてばかりでした。迷惑かなって思ったこともあったけど、どうしても踏ん張りが効かなくてーーー」

「そんなことがあったのね……」

「はい。それで、人付き合いで困り果ててた時に、ふと思ったことがあったんです。私は料理をしている時だけは別の自分が出るーーーといいますか、もう一人の私が出てくる感覚があったんです。料理をしている時だけは……人と楽しく話せていたことを思い出して、それで料理店を始めようとしたのですが……、私一人だけが切り盛りするのでは体力的に難があったので、時間指定が出来る宿屋を開拓しようと思ったんです‼︎」


彼女なりの至った経緯があったということだ。

話を聞いていたアリアは心の底から感心した。


自分の得意なことを仕事に生かそうとしたことや、苦手を克服しようと考えていたこと。


感服に至った。

本当に同じ年かと疑うほどに、彼女は自分なんかよりよっぽどいさましかった。


「凄いねルニーは。私なんか料理もろくに出来ないダメダメな人間よ」

「そんなことないですよ‼︎アリアさんだって、無人を討伐するっていう立派な仕事をしてるじゃないですか‼︎」

「そう?」

「そうですよ‼︎普通私達の年頃は、そんな危険なことしたくないって思うのに……。アリアさんは人々を守るためにコード持ちとして私達を守ってくれてーーー私、本当に尊敬してるんです」


ルニーがアリアに近づいていき、彼女の手を握ってじっと見つめた。


「もっと自分を誇ってください‼︎無人を討伐するって誰でも出来ることじゃないんですよ‼︎私のしてる料理は、アリアさんだって学んでしまえば、いとも簡単に出来てしまうことなんですから‼︎それに比べたら……もし私がコード持ちだったとしても、無人を討伐するなんてこと絶対に出来ません。怖くて投げ出しちゃうと思います」


彼女の熱弁に、アリアは黙って聞いていた。

ルナーは話していくうちに熱くなったのか。


アリアの手を握る力が次第に強くなっていく。


「前を向いてくださいアリアさん‼︎貴女には、貴女にしか出来ないことがあるんです‼︎他の誰でもない貴女が他人には出来ないことをしてるってこと、この街にいる人達に証明してください‼︎」


その言葉を聞いてアリアは目頭が熱くなった。

まさか同い年にこんな言葉を投げかけてもらえるなんて思ってもみなかったからなのか。


目尻を拭ってアリアは手を握り返した。


「ありがとうルニー。貴女のおかげで元気が出たわ。料理も美味しかったし‼︎」

「そうですか?それは良かったです‼︎」


二人は互いに笑いあった。

アリアにとってはなんだが温かいものを手に入れたようなそんな気分だった。


温もりを感じているアリアにルニーもまた同様の温かさを感じていた。


二人はまるで双子の姉妹かのように振舞っていた。

お互いがお互いのことを知っていく感覚になる。


アリアとルニーの笑い声が食堂を抜けていくのであったーーー。



♦︎♢♦︎



太陽の陽が昇り、日差しが照りつける。

心地良い日差しが眠気を一気に覚まし、脳を活性化させる。


目は大きく開かれ、遠くの先まで見渡す。

昨日の騒ぎが一転して閑散とした風景が飛び込んでくる。


人も疎らに歩いていて、嘘のような静けさが街を支配していた。


レンガの家が左右対象に連なっている景色が、異様な光景にも思えてくる。


左右に家が連なる間には、メインストリートと呼ぶべき道路が存在感を露わにしていた。


道路の存在感とは対照的に人っ気はまるで存在していない。


その人気の少ない大通りに、ホルノマリン街には似つかわしくない服装を見に纏った一人の女性が、凛とした雰囲気を漂わせて歩いていた。


誰もが一度見れば、二度見してしまうほどの美麗な女性。


一目瞭然の容姿端麗綺麗な顔立ちを持ち、女性の美しさを強調した華奢な身体つき。


太陽の光によって煌びやかに艷られた艶のある銀色の髪。


品行方正を思わせる風貌が特徴的な淑女。

一見見た目の美しさに目をやられるが、その外見はクールさを醸し出している。


通り過ぎる人が思わず振り返ってしまうほど綺麗な立ち姿に異性は頬を赤らめ、同性ですら羨望の眼差しを向けること間違いなし。


その女性は冷たい表情で街を徘徊するかの如く。

宿屋で新調したメイド服を着たアルマリアが存在感を明らかにするために佇んでいた。


アルマリアはどこか悲しげな瞳で街を歩いていた。


朝からユースティスと喧嘩したアルマリアはその場に居づらくなり、部屋から飛び出す形で外を歩いていた。


気を紛らわすため、気持ちを落ち着かせるために街を散歩していたのだ。


別にユースティスと喧嘩したことに対しては特に何も思っていない。


むしろ今までと同じことをしているので罪悪感は全然ないーーー訳でもない。


しかし、いくら歩み寄ってみようと全くと言っていいほど馬が合わない。


たまに悪いと思って彼に謝ったところでその上をいく意見をぶつけられてまた衝突する羽目になる。


彼が上乗せしてくる意見をいくら反したところで何も変わらない。


こちらが譲歩したところで彼は許してくれない。

一切の妥協が彼にはないのだ。


一度決めたことを曲げない考え方を彼は持っている。

頑固とも取れるユースティスの態度に、アルマリアはいつもいつも冷ややかな目を向けていた。


ユースティスは言葉が強い。

頑固で妥協もしない。


対して自分はーーーマイペースだ。

基本的に人の話を聞くのは苦手なのだ。


馬が合わなければきっといくら意見を交わしたところで交わる筈がない。


それは永遠に続く討論のように。

時間の無駄であると。

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