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6章 自分とは非てなるもの

「……っ」


温かいスープが舌に伝わる。

アリアが一瞬驚いたのをルニーは見逃さなかった。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫。少し舌がピリッとしただけ」

「すみませんッ‼︎調味料間違えたかなぁ〜」


はてなマークを頭に浮かべてアリアからスプーンを奪い取ると、自身が作ったスープを一口飲み込んだ。


舌で味の感触を確かめる。

しかし、特に問題がなかったのか首を傾げてルニーは舌を巻いていたアリアを見つめた。


「偏食家……とかではないですもんね?」

「満足な物を久しく食べていなかったからかしら」

「満足な物?」

「ええ、ここみたいに満足した食事をしたの久しぶりだったから……。そのせいで舌が慣れていなかったのかも」

「それはどうしてですか?」


ルニーの問い掛けに、アリアは気難しさを覚えた。

純真無垢な瞳で真っ直ぐな質問をぶつけてくる。


この意味をすぐ理解出来ていないことを考えると、ルニーは無人の存在を知らないのだろう。


「貴女……、今この街がどうなってるか分かる?」

「え?街……ですか?特に何も変わってる様子はないように思えますけど……何かあったんですか?」


考える仕草を取ったルニーが、さも理解していないといった答えを出してきた。


やはり、この少女は街で何が起こっているのか何も知らないようだ。


それはまずいと思ったアリアは、スープを二口飲むと今だに言葉の意味を理解していないルニーに顔を向け鋭い瞳で見つめた。


「どうしたんですか?」


真っ直ぐな瞳で向けられたルニーは挙動不審となりアリアを怖がり始めた。


ただならぬ雰囲気を感じとった彼女が生唾を飲んで頑なにこちらを見守る。


二人の間には静寂が訪れる。

微かに聞こえてくる会話が遠のいて行くのが分かった。


今食堂には二人だけしかいない。

アリアは落ち着いて深呼吸をした。


そして、一泊置くと口を開いた。


「ルニー。実はね、この街に無人が現れたの」

「え……」

「驚くのも無理はないわ。今まで現れなかったものね。でも、この話は本当よ……貴女も気が付いたんじゃないかしら?街の異様な雰囲気に」

「確かに……、いつもは目の前の道路に商人達が仰々しく行き交うのですが、それが昨日一昨日からあまり見かけませんでした。違和感を覚えていましたが……。まさかそんなことになっていたなんてーーー」


無人が現れたという言葉にルニーは動揺を隠せないでいた。


彼女は今初めて無人が来ているということを知ったようだ。


情報の伝達が全員に行き渡っていないところを見る限りでは、この街は非常に危険である。


もし万が一今無人が襲って来ていたら、ルニーは確実に逃げ遅れているだろう。


情報知っていれば一早く違和感に気が付いて逃げることが出来るというのに。


伝達能力の無さが分かって来たことで、ホルノマリン街という一つの街の危うさが滲み出ていた。


この部分に関して言えば改善の余地があるだろう。


「そうですか……、ありがとうございますアリアさん。もしあなたに教えて頂かなければ私は街の違和感の正体に気が付かなかったでしょう」


感謝の念を述べた彼女が腰を折り曲げる姿を見て、アリアはふっと微笑んだ。


とてもいい子だ。

そうアリアは思った。


それにしっかりしている。

本来なら無人が現れたと聞けば、すぐにでも逃げられる準備をし始めるのだが、目の前にいる少女は落ち着いた様子で話を聞いていた。


冷静な少女であることに間違いない。

この子なら大丈夫だろうとアリアは思った。


溜息をついたルニーは、気分を改めるために自ら料理を始めようとする。


料理をすることは彼女にとって至福の一時であるということが鮮明に伝わってくる。


彼女が料理している姿を改めて見ると、料理している時の彼女はずっと笑っていた。


優しい瞳が彼女の人柄を表しているようだ。

その姿にアリアは夢中になってしまう。


やがて、作り終えたルニーがアリアの前に新しい食器を出した。


これまた美味しそうな料理に羨望の眼差しを向けてアリアは聞いた。


「これも食べていいの?」

「勿論です‼︎アリアさんと食べるために作りましたから‼︎」


許可を取ったアリアが二品目に出された小さめに作られたカットステーキをフォークで刺して頬張った。


口の中で広がる肉汁が何とも言えない美味しさを口の中に満たしていった。


こうも早く料理が出てくるのに驚いていたアリアがふと疑問に思っていたことを言った。


「ルニー、貴女年齢はいくつ?」

「ほぇ?年令ですか……?十六ですけど……、それがどうかしましたか?」

「私と同い年なのね」

「そうなんですかッ⁉︎何だか親近感が湧きますね‼︎」


同い年とは思っていなかったのか。

ルニーは想像以上に驚いて声を上げていた。


驚いている彼女に畳み掛けるかのように、息が漏れるくらいの言霊で聞いた。

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