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コンコンという音と共に開かれた扉から、この宿の主であるルニーが起こしに来てくれた。
ベッドに突っ伏していたアリアは、我に帰ると勢い良く起き上がりルニーに向き直った。
「おはようルニー。私は起きているわよ。あぁ、後の二人は既に出掛けてしまっているから心配しないで」
爽やかな笑顔を向けてルニーに顔向けする。
ルニーは最初こそ戸惑っていたが、アリアの元気そうな姿を見て安心したのか安堵した様子で言った。
「それは良かったです。実は朝食の準備が出来ているのでお呼びしようかと思いましてーーー」
ルニーが恥ずかしそうに顔を赤らめながら言った。
その時、ちょうどよくアリアのお腹の虫が鳴り始めた。
お嬢様らしからぬ大きな音を立てて鳴るお腹を抑えながら下を向く。
恥ずかしそうにしているアリアを見つめ、ルニーは笑いながら言った。
「ふふっ、準備はしてありますのでどうぞ」
そう言って、ルニーは食事がある場所に来るように促す。
顔を赤らめていたアリアは、無言のままベッドから体を起こすと、黙ってルニーの後に続いた。
部屋を出て一切の言葉を喋ることなく、ただ無言で後ろをついてくるアリアの姿にルニーは冷や汗を流して後ろを確認する。
(さっきの……よっぽど恥ずかしかったのかな?)
気まずい空気が二人を包み込んだ。
食事場に付く間、アリアは終始下を向いていた。
油断していたとは言え、見ず知らずの少女におなかの音を聞かれたことをアリアは不覚と思っていた。
沈黙が続いて気まずい状況に陥っているのは知っていた。
ルニーはこちらをちらちら確認しながらなんとか話そうとしているのが見えたのだが―――
何か話そうにも言葉が出ない。
出そうとすると、先程の情景が頭浮かんで尚更話せなくなる。
しばらく後ろをくっついていると、不意にルニーが足を止めた。
目的の場所に着いたのかと思い、アリアは歩を休めて顔を上げた。
すると、予想道理アリアの目の前にそれらしきものが映り込む。
彼女の案内で連れてこられた場所は、この宿を使っている人間全員が入れるほどの広いスペースを確保した大きな食堂だった。
「へぇ〜、随分広いね」
その広さに自身の失態を払拭する。
アリアが感嘆の声を上げて辺りを見渡す。
見積もって五十人くらいは入るだろう広い敷地に作られた食堂。
昔の屋敷の部屋と同じくらいの広さがあるだろうその部屋を見て、アリアは懐かしさを覚える。
アリアがキラキラした瞳を輝かせているのを見たルニーは、彼女の方を向いて言った。
「そうですね。泊まってる方が満遍なく座れるように設計したのですが……」
ルニーはちらりと横目で確認しながら机と椅子が敷き詰められている食堂を見渡した。
多くの椅子と机が備え付けてあるのにも関わらず、席は疎らに埋まっていてそのほとんどが空席だった。
その現状に、アリアはなんとなく心の中で行き着く答えに辿り着いた。
彼女が辺りをゆっくり見回して、悲しげな瞳で言う。
「中々繁盛しなくて、今は余ってる状態なんですよ」
笑いながら言うルニーの答えと、アリアが導き出した答えが一致していたことに、内心心苦しいと思った。
しかし、ルニーは特に暗い顔をすることはなくむしろその真逆。
微笑ましい笑顔を向けて笑っていた。
その姿を見ていて自分も不思議と朗らかな気持ちになった。
その無邪気な笑顔を見て、彼女の純真さを痛感する。
彼女もまた無人の恐怖を知らない一人の人間であるのだと再認識させられる。
「でも、今日はいつもと違って随分空席がありますね。本来ならもう少し埋まってるんですけど……」
確かに彼女の言う通り食堂には空席が複数あり、座っている人達がポツポツと疎らな人数しかいなかった。
「空いてる場所、適当に腰掛けちゃってください」
繁盛しているとはとても言い難い人数ではあるが、一人でこの宿を切り盛りしているルニーからすれば、むしろ好条件ではないのかと思った。
言われるがままに適当に空いていた席に手をかけ椅子に腰掛けると、アリアはお腹を摩って力無く机に頭を預けた。
力無く倒れているアリアと別れたルニーは、食堂の奥に設置してある料理場で彼女のために料理を振る舞おうとしていた。
その健気な姿にアリアは羨ましさを覚える。
自分と同じか、もしくは年相応の風貌を持ったルニーが、手際よく料理を作っている姿が何とも印象的な風景になる。
今思えば、自分は料理をまともに作ってこなかった。
料理を教えてくれる人間は母と使用人だけだったが、母が作っているところはあまり見ていない。
いつもご飯はアルマリアかもしくは他の仕様人が作ってくれていたので、何とも気難しい気分になった。
その時、美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。
腹の虫が鳴り、空腹感が増していく。
待ちきれなくなるような香ばしい匂いが風の便りでアリアの元に運ばれる。
口から零れそうになる唾を飲み込んで待機していると―――
「出来ましたよ〜」
ルニーの声と共に目の前に出された食器に倒れていたアリアは頭を上げて匂いに釣られる。
目の前に現れたのは大きな皿の上に乗った小さく切り刻んだお肉の塊。
その肉が浸るスープの何とも言えない透明感がより鮮明に美味しさを際立たせる。
香ばしいほどに匂いが香るほんのりとした温かみのあるスープに思わず目を奪われる。
「スープで体を温めて頂きたく作りました。朝がっつり食べるわけにもいけませんからね。軽めに作っておきましたよ。ささっ、食べてくださいッ‼︎」
力強く前に乗り出したルニーは握り拳を作り、感想をいち早く聞きたいといった風貌でアリアを見つめる。
その後で手を前に出してお辞儀した。
差し出されたスープを前にアリアは黙って皿の上の料理を見つめる。
湯気が立ち込め、白い靄が目の前に現れる。
見てるだけで暖かいと分かるスープと、唾液を刺激するお肉の美味しそうな匂いがアリアを包み込む。
「どうぞ、ゆっくり召し上がり下さい」
ルニーに促されたアリアは、皿と同時に用意されたスプーンに手を掛けてスープを掬うと、一口飲み込んだ。




