表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/106

error code.29

ユースティスとアルマリアがそれぞれ出て行った宿では、ポツンと一人アリアだけが残されていた。


閑古鳥が鳴くのではないかと思うほど静かになった部屋で一人、アリアは無言で立て込んでいた。


アリアは出て行った二人を特に追うわけでもなく、部屋のベッドで寝転がり、先程の情景に対しての不満を漏らしていた。


「全く……、ユースティスとアルマリアは喧嘩が過ぎるんだよ。どうして二人は喧嘩するのかな……。もっと仲良くしたり出来ないのかな?」


思っていることが口に出る。

独り言が部屋に木霊する。


疑問が頭の中を埋め尽くしていく。

二人の喧嘩はまるで、夫婦の喧嘩の悪き如く。


それが口喧嘩だけならまだしも、実力行使にまで発展するから末恐ろしい。


二人が実力を発揮した喧嘩をすれば、この宿は今頃跡形もなく無くなり僻地へきちになっていたはずだ。


それほど二人の喧嘩は周りを巻き込む。


アリアの家庭はそう言った夫婦の喧嘩沙汰は全く無かったから、アルマリアとユースティスこの二人が喧嘩した時の対処法がイマイチ分かっていなかった。


毎回口に出して止めるように告げているが、効果は発揮される時と発揮されない時がある。


喧嘩を止める効力は、その都度によって違うから困ったものだ。


一人部屋に残ったアリアは胸に引っかかる違和感を抱えながら、一人武器の整備をしていた。


「ミスコード」


詠唱を唱え、裾から飛び出す燃える黄金のカードを手に持って前に翳す。


「私怨……」


続いて紡ぐと、ゴウッという燃え盛る火炎を渦巻いてカードが姿を変える。


手に現れた銃剣が光りを輝き放つ。

美しい黒と白の塗装で塗りたくられた銃剣を、アリアは整備していく。


定期的に整備しなければ、武器も最大の力を発揮出来なくなる。


そうなる前に整備を行うことで、万全の状態で無人に対等出来るのだ。


銃剣のアリアは弾を込める為に、武器をいじる。

アリアは立ち上がると、旅のため持って来ていた荷物の中を探る。


音を立てながら探っていると、目的の物が手が引っかかって取り出した。


それは、無人を討伐する為に作られた特製の銃弾が入った巾着袋だ。


ジャラジャラと音を立てて弾同士がぶつかり合う。

そのうちの一つを巾着袋から取り出して手の平で転がした。


扱い上手に銃弾を見つめ、アリアは考える。

無人を倒すために作られた武器。


自分が一番しっくりとくる武器を持って無人に挑む。

それが当たり前の世界。


だが、いくら武器の扱いが出来たところで人を救えなければ、この武器は意味を成さないことをアリアは分かっていた。


二人が喧嘩する理由も分からなくもない。

恐らく互いの性格が真逆だからこそ。


二人の性質が噛み合わないからこそ喧嘩が起こるのだと。


アリアは理解わかっていた。


知っていた上で、二人の喧嘩を止められないのは自分の力不足が原因であると常々思ってしまう。


無人を倒す前に、人間同士である二人の喧嘩を止められない自分が……


本当にこの街に現れた無数の無人を屠ることが出来るのだろうか。


疑問が疑問を呼んで、負の連鎖を起こそうとする。

アリアは卑屈だ。


自分を虐げるのに慣れている。

ヒステリーを起こすこともーーーしばしある。


だからこの街を見ると、何だが心の奥底から安心感を得られる気がしていた。


無人に襲われない暮らしがこれほど幸せだったことをーーーアリアは知らない。


知っていたかもしれないけど、幸せな記憶ほどアリアの中でパズルのピースが欠けるように失われていく。


母との過ごした日々だって覚えているのは、彼女が最後を迎えた瞬間。


パッと思い出せと言われても、すぐ記憶を探り出せるかどうか怪しい。


夢ではあんなにも思い出せるのに、朝起きたら何もかも忘れてしまう。


父との過ごした最後も、彼が喰われてしまう印象が強かった瞬間。


その部分だけしか頭に残っていなかった。


父方の方は母方に比べてまだ記憶が新しいというのもあるが、それでもやはり薄れていく記憶にアリアは悲観すら覚える。


ふと、アリアはベットから体を起こして窓の外を見た。


そこから覗き込める景色に、無情にも心が動かなかった。


晴天の空に、涼しく靡く優しい風。

心地よい日差しに照らされた家が熱を灯して陽気にさせる。


外には子供達が楽しそうにはしゃぎながら道路を駆け回っていた。


その光景に羨ましさを覚えて……。


もし、この街に最初から住んでいたら自分は今頃どうなっていたのだろう。


外を自由に歩き回って、子供のように無邪気に笑っていたのだろうか?


それとも、少しは大人の女性に成長していてお淑やかな雰囲気で街中を歩いていたのだろうか?


どういう風になっていたのかなんてあくまで憶測でしか話せないし、夢を見ることしか出来ないけど。


それでもきっとこの世界に初めから浸っていたらーーー


幸せだったんだろうなと胸に締め付けて、アリアは窓から視線を外した。


これ以上幸せな光景を目にしてしまったら、ここから出たくなくなってしまう。


そんなことになれば、この街以外に困っている沢山の人間を救うことが出来なくなってしまう。


父があの日託した思いは、アリアの中に残り続けていた。


『アリア……、この世界を……頼む‼︎』


鮮明に思い出せる記憶。

僅か十代の自分には到底重たすぎる言葉。


託されたものの重さに、アリアは投げ出しそうになる。


だが、父の最後の瞬間。

今思えば、父は偉大だった。


そのことをアリアは知っていた。

父の偉大さ。


父が成し遂げた世界の記憶。


「父がコードオーバーで戦ったのなら、私はコード持ちとしてこの世界と戦っていかなきゃ……」


一種の責任感ーーーもとい、呪縛のような呪いにも似た束縛にかけられている。


そんな雰囲気だ。

だが、不思議と心は苦しくない。


何か目標を持って進むということが自分には合っているのかもしれない。


アリアは胸に手を当てて目を瞑った。

目を瞑れば、全てが真っ暗の景色。


何も見えない暗がりの空間。

神経が研ぎ澄まされる感覚。


感覚が鋭敏になり、耳から入ってくる音が鮮明に日常風景を奏でる。


子供の笑い声。

大人達の楽しそうな会話。


商談に話を募らせ、平和を当たり前と思っている婦人達。


その色褪せた世界に、アリアはふと笑みが溢れる。

自分のやっていることが馬鹿馬鹿しくなってくるのを覚えて、アリアは逃げるようにベッドに突っ伏した。


力無く抜けていく体をベッドに預けているとーーー

ドアを二回ノックする音が聞こえてくる。


「すみません。アリアさん起きていますか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ