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扉の鈍い音が耳に聞こえて来る。
ギィイーーー
という低い音を立て、アリアとアルマリアは部屋へと入る。
部屋に入るなり、目の前にはシングルベッドが三つに奥には長机が一つ置いてあった。
その長机の上には淡く光るランプが優しく包み込むように光を放っていた。
その光の下で一つの人影が揺らめき動く。
人影は体を微量に揺らしながら、長机に敷き詰められた紙に何かを書き綴っていた。
書き殴る手が止まることなく、一人で考え事をしているユースティスが二人の目に入ってきた。
アルマリアはそんな彼を数秒見つめた後、扉を全開に開け自分の後ろにいたアリアに中に入るように指示を出した。
「お嬢様どうぞ」
アルマリアに声を掛けられたアリアは、彼女の後ろから顔を出してみせた。
「遅かったな、何していたんだ?」
と同時に、こちらの存在に気が付いたユースティスが問いかけてくる。
相変わらず手を休めることなく机と向き合っているユースティスの近くに寄って行きアリアは問い掛けに対する回答を答えた。
「街を見てたの」
「何か楽しいことはあったか?」
「う〜ん……、それは意地悪な質問だね」
「あえて言ったからな」
「ユースティス、お嬢様を虐めるのは止めて下さい」
「そういうお前も、すぐ戻ってこなかったな?」
「私はお嬢様と一緒にいましたから」
入るなり早速いざこざが始まる三人。
アルマリアは扉に背もたれをかけ、アリアはベッドに腰を下ろしていた。
「それで?ユースティスは何してるの?」
部屋に入るなり何の躊躇いもなくベッドに寝転がり体重を預け、アリアは顔を横に向けユースティスを見つめ問い掛けた。
「見て分からないか?」
「ごめん。全く分からないや」
「はぁ……」
「溜息ね、分かってますよ。分かってますとも……」
ユースティスから聞こえてきた重い溜息に、アリアはいじけて返した。
「全く……、お嬢様はもう少し人の苦労を知れ」
「ううっ、御もっともです……」
縮こまったアリアが申し訳なさそうにベッドに顔を突っ伏した。
「お嬢様、何も謝る必要など……」
「いいのよアルマリア。私が全部悪いんだわ」
「そんなことありませんよ。お嬢様は立派にお嬢様です」
「ありがとうアルマリア。私元気出た」
そう言ってアリアはベッドから立ち上がり握り拳を作った。
「その粋ですお嬢様」
その様子をアルマリアは暖かな瞳で見つめる。
「呑気だな二人は……」
そんな二人に呆れ返っているユースティスが細目で彼女達を見つめると、再び机に向き直る。
ユースティスの目の前にあったもの。
それはーーー漆黒に塗りたくられたカードだった。
そのカードには紋章が刻まれていた。
「成る程……、調律をしてたんだね」
「素晴らしい心掛けですね。全くもって素晴らしいです。えぇ……、大変素晴らしいことですね」
「アルマリア。全然素晴らしいって思ってないだろ。感情が籠っていないのがバレバレだ」
「貴方に見破られるほど甘くありません」
「減らず口だけは一丁前だな」
「その台詞あなたに返すこと出来ますよ?」
「ふっ……」
喧嘩が始めると思っていたアリアだったが、二人の上がりかけた熱は終息していく。
やがて、ユースティスはその手を止めて二人に顔を向けた。
「終わった?」
「あぁ、滞りなくな。カードの調律は大切だからな」
「いちいちよくやりますね。私なんてそんな細かく調律したことありませんよ」
「何を言ってる?調律は大切だ。俺達の武器は無限に出せるわけじゃない。カードの調律をすることによって保たれる武器の保持能力が起こせる身技。それを可能とするのが調律だ。常に調律を正していなければ、武器の形成が不完全な状態で現れてしまう。そうなれば、精神的にも不安定になり、無人を倒すことが出来なくなる。武器は己の魂だ。魂を具現化したようなもの。それがコード持ちが武器を保持出来る理由だ」
ユースティスはカードを手に翳しながら、二人の前に出した。
漆黒に塗りたくられたカードを見て、アルマリアは袖から同様に似たカード自分の持っている白銀に彩られたカードを手に持って見つめた。
カードには磁気が埋め込まれている。
それは目に見て分かるように形として浮かび上がってくるのだ。
その磁気は真っ直ぐの線となって黒くカードを汚していく。
真っ直ぐの直線が入ったカードに少しでも磁気の乱れがあれば、黒の線が歪み目に見える形となってアルマリアに知らせてくれる。
ふと視線を磁気に向けて見れば、アルマリアのカードに入っている黒の線は少しだけ歪な形をしていた。
そのカードをじっと見つめーーー
「……」
「今、この程度なら大丈夫だと思ったろ?」
「……」
「図星だな」
今まさに思ったことをユースティスが一言一句違わず告げていく。
心の中を読まれたアルマリアが訝しげな顔をして彼を睨んだ。
「……思ってません」
「嘘をつくな……、アルマリア。悪い癖が出てるぞ。嘘をつく時そっぽを向くのは良くないな」
彼女が彼の視線から外れるようにして顔を背けている姿を見て彼はそれさえも指摘する。
だが、指摘を受けてもなお、アルマリアがユースティスに顔を向けることはない。
意地の張り合いと言ったところだろう。
頑固者は困る。
「お嬢様、カードを見せてみろ」
ユースティスはアルマリアから視線を外して、ベッドに寝転がり様子を伺っていたアリアに視線を向けた。
彼女は呑気にベッドを右往左往転がりながら暇を持て余していた。
そんな彼女を見兼ねたユースティスがギラリと視線を鋭く光らせ、指示を促した。
「ん?カード?いいよ〜」
彼女は眠たそうにベッドに居座り、ユースティスにカードを投げ出す。
天に放り上げられたカードの行方を見据え、ユースティスはアリアの黄金に輝くカードを受け取った。
不躾に投げられたカードを見つめ、ユースティスは息を呑んだ。
彼女が持っていたカードは、直線に入った黒の線が激しい歪みを伴っているのをユースティスは見た。
一体いつから調律を怠っていたのか。
容易に分かる内容のものだった。
お嬢様のカードがズタボロに壊れかけていることを知ったユースティスは、心の中で黒の蟠りが生まれる。
「お嬢様……、最後に調律をしたのは一体いつだ?」
その言動からユースティスが若干怒っているのを感じ取ったアリアがベッドから起き上がって正座をした。
「え〜っと……。確か、半年前くらい……かな?」
はにかんだ笑顔を向けて答えたアリアに対して、ユースティスの頭の血が切れる音が聞こえてきた。
「お嬢様……、流石の俺でも呆れるが、怒りはするからな?」
言動が綻んできたユースティスがいつにも増した鋭い睨みを利かせてアリアが見つめる。
凄みのある表情で見つめられたアリアは、少し仰け反りながら彼から距離を取る。
「面倒臭くて……ね?つい……」
その言葉でユースティスの堪忍袋の尾が切れてアリアは手痛い説教を食らった。




