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4章 休息

「お嬢様。着きましたよ」


アルマリアは隣を歩いているアリアを見つめる。

すると、彼女は下を向きながら暗い顔をして歩いていた。


そんな彼女の姿を見て、アルマリアは心が締め付けられる感覚に襲われる。


いくら無人を倒せるまでに成長した彼女だからといって、いざ無人を倒すこととなれば、その不安は到底計り知れないものになるだろう。


その感覚を一度経験し自身も知っているアルマリアだからこそ、彼女の表情からその心中を察し取ることが出来るのだ。


答えないアリアから視線を外したアルマリアは、目の前に現れた宿屋の前で立ち止まる。


デバイスでユースティスがいることを確認してから、扉をゆっくりと開けようと試みた。


外から見た雰囲気では外観は暗く、よどんだ雰囲気を醸し出していた。


何とも入り辛い空気を肌に浴びながら、アルマリアは古びた風情ある扉の引き戸に手を掛けて力一杯押した。


ギィイーーー

という鈍い音を立てて扉が開く。


開けた瞬間、中から来る冷たい冷気がアルマリアの手先に伝わって来る。


一瞬入ることを躊躇う。

その躊躇いたくなる気持ちを抑えて、アルマリアは意を決して中に入ろうと勢い良く扉を開けた。


力一杯扉を押したその時ーーー


「あいたッ⁉︎」


扉の向こう側から何やら女の子の可愛いらしい声が聞こえてきてアルマリアは咄嗟に扉から手を離した。

開いていた扉が再び閉まる。


ハッとしたアルマリアが再度扉に手を掛けて開ける。

恐る恐る様子を伺いながら中に入ると、アルマリアの視界に薄暗がりの灯りに照らされたホールが目の前に現れた。


だが―――

どこを見渡せど、先程聞こえてきた女の子の姿が見当たらなかった。


自分の聞き間違いかと思って、中に入り一歩踏み出した瞬間ーーー

足元に妙な感触が伝ってきてアルマリアは素早く足を上げた。


グニャ―――

という何かを踏んだ感触が足に残る。


何事かと思い首を下に向け足元を見ると、そこには床に尻餅をつきながら頭を抑えている少女の姿があった。


彼女は必死にひたいを手で摩りながら襲い来る痛みを我慢しているように見えた。


「いたた……。何ですかぁ……?」


少女は額を抑えながら、顔を上に向けてきた。

すると、目の前にいるアルマリア達を見た少女は、驚いて目を見開き声を上げる。


「わぁ……ッ‼︎お客様ですか⁉︎すみません‼︎ボッーとしてましたぁ‼︎」


こちらの存在に気が付いた少女は勢い良く立ち上がると、颯爽とアルマリア達に背を向けて走り去って行き、ホールへと戻って行った。


突然の出来事にアルマリアは呆ける。


その彼女の後ろにいたアリアが何事かと不思議そうに中を覗き見ながら彼女の背中を押して入っていく。


背中を押されていることに気が付いたアルマリアがハッとなってアリアに言った。


「お嬢様、もう大丈夫ですから。押さないで下さい」


そう言うと、アルマリアは先程自分の目の前に現れた少女が立っているホールへと足を進める。


そして、少女の前で止まりアルマリアは彼女をじっと見つめた。


先刻前は突然の出来事で気がつかなかったが、目の前にいる彼女を改めて拝見して思う。


女の子のお手本となるような華奢な体に、透き通った透明感のある肌。


毛先の整った肩まで長く伸びた朱色の髪に、吸い込まれそうになるほど綺麗な紅炎に輝く瞳が何とも言えない雰囲気を漂わせている。


その外見に印象的な少女が目の前に立って、何やらせっせと手を動かしていた。


「え〜っと、ユースティス様のお部屋で間違いないですね?」


彼女はこちらを見ずに手を動かしながら言った。


「え、えぇ……。合っています。よくお分かりになりましたね」

「はい。ユースティス様が仰っておりましたので……」

「なんと仰っていましたか?」

「『ひらひらのメイド服に身を包んだ女が来たら、俺の名前を出せ』と……」

「なるほど……」


確かにその言伝なら確実なものだろう。

何しろこの街にメイド服に身を包んでいる人間はほとんどいないのだから。


その言葉で確証的なものになるに違いない。

だが、なぜか釈然としない。


彼の的確な言い方に対してなのか。

そう考えていると―――


「ユースティス様は一号室にいらっしゃいます。少々お待ち下さい」


そう言って、彼女はその場で待てと合図を送った。

言われるがままに二人はその場で待機する。


先程慌てふためいていた姿から一変して丁寧な対応の彼女に適応の遅れを取っていると、アリアが彼女に対して問いを投げかけた。


「貴女は……、この宿を切り盛りしてる人?」


辺りを見渡しながら質問する。


「ええ、そうですよ。何分一人で切り盛りしているものですから忙しくて。ははっ―――。人手が欲しいんですけど……。皆さん街の中心に行ってしまわれるので、この宿もどうしても人手不足になってしまうんですよ」


少女は、手に持った書類に何か書き記しながら話す。

恐らく手続きに必要な事項なのだろう。


その真剣な仕事姿を見て、アリアは彼女から目が離せなくなった。


ここまで淡々とこなしていくのに、一体どれほどの時間をここで過ごしてきたのだろうかと。


唐突に彼女の生きてきた半生を知りたくなった。


「貴女……、名前は?」

「私……ですか?珍しい方ですね。私の名前をお聞きになる方なんてそうそういませんよ?そうですね。でも聞かれたからには答えないわけにもいきませんね……。私の名前はアーネット・ルニーと申します。この宿を切り盛りしている者です。改めてよろしくお願い致します」

「そう。なら、これからお世話になるわね。よろしくお願いするわルニー」

「はい‼︎任せて下さい‼︎」


ルニーは元気良く返事をする。

彼女は書き殴っていた書類を書き終え、動かしていた手を止めて言った。


「それでは案内します」


彼女は手を出して場所を案内する。

ホールを抜け、奥の廊下をルニーの後に続いて進んでいく。


ユースティスがいるという場所は、確か一号室だと言っていた。


視線を張り巡らせていると、廊下の左右には部屋へと通ずる扉が所々にあった。


更に真剣に見渡していると、部屋番号が書かれている部分を見つけた。

古びた看板の立て札がアリアの目に飛び込んで来る。


そうして宿の内装の雰囲気の感触を確かめていると、不意にルニーが立ち止まった。


どうしたのかと思い彼女を見つめていると、ルニーはくるりと半回転してこちらを見つめ言った。


「ユースティス様がいるお部屋はこちらになります」


彼女は扉に手を向けて言った。

ルニーが左手を出して部屋へと案内する。


確かに彼女が指した扉の上に備え付けられていた立て看板には一号室と彫られていた。


案内された二人はユースティスがいる一号室へと足を運んだ。


扉に手を掛けて開いた。


「それではごゆっくり……」


二人が扉に手を掛けたと同時にルニーは腰を折り曲げ一つお辞儀をすると、アリア達に背を向けてその場から立ち去っていった。


一人で切り盛りしているからだろうか。

せっせと立ち去っていく彼女の背中を見つめる。

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