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「毎度あり……」
手に持った黄色の宝石を手にして店を去ろうとする。
扉に手を掛け足を一歩踏み出したその時ーーー
「あぁ……、お客さん」
不意に呼び止められてロンドは手に掛けていた扉を開いたまま立ち尽くした。
「何だ?」
「その宝石、何か分かりますかね?」
と、ロンドの手に持っていた宝石を指差して言った。
ロンドは視線を宝石に移すと首を横に振って応じた。
「その宝石の名前はイエローブレット。黄色の弾丸のとも呼ばれている宝石です。非常に脆くなっているので扱いにはお気をつけて下さい。覚えておいてそんなはないでしょう……」
そう言って、白髪の老人は最後に小言を告げてロンドを見送った。
宝石の名前を知ったロンドは店を出た。
何とも不思議な感覚に襲われていた。
温かな雰囲気の宝石店を抜ければ、街の活気付いたざわめきが耳に飛び込んできた。
静かな空気が一変して騒音のように耳に轟き響き渡る。
折角落ち着いたところだったのにと溜息を吐いて落ち込む。
そうして一回下を向いて足元に目をやる。
その時、ユースティスという男の言葉が頭の中に蘇ってきた。
「この地の下に何かある……か」
不思議な話ではあった。
地下に何かあるという確信は無い。
もし仮にあったとして、そこに一体何があるのか見当も付かない。
無人を寄せ付けないものを考えてみる。
しかし、何も思いつかない。
元より考える頭がないのが自分であると自負している。
再び溜息が溢れ顔を上に向ける。
その時、視界の先に映り込んで来た探し求めていた二人の少女と女性に目が止まった。
場違いなメイド服に身を包み、お肉を頬張っている姿の淑女と、その隣で朗らかな笑顔を彼女に向けている少女がいた。
はぐれていた時間はそんなに長くなかったのに、何故か無性に会いたかったその二人の元へ歩み寄っていく。
そしてーーー、
二人に無事合流を果たしたのだ。
「って、二人?」
そこで、違和感に気が付いたロンドが声を上げた。
「兄ちゃんはどうした?買い物か?」
お肉の美味しさの余韻に浸っている二人に話しかける。
「兄ちゃん……?あぁ、彼のことですか。心配いりませんよ。ユースティスならきっとそこら辺の宿屋で考え事をしているところでしょうから」
彼の問いかけに応じたとアルマリアが答えた。
ロンドの顔を見て答えると、彼は納得したように頷いた。
「そうか……、何だかあの兄ちゃん淡々としているよな。仲が悪いってわけじゃないんだろ?」
「そうね。いつも一緒にいるし、仲悪いわけじゃないよ」
「だよな〜。仲悪かったら旅してないだろうし」
「色々あるんですよ、彼にも……」
ロンドの唸るような仕草に、アリアとアルマリアは否定して反応する。
ユースティスの淡泊な態度は今に始まった事ではない。
旅をする前の彼は今の彼よりももっと物静かな男だった。
今でこそ喋るようになってはいるが、昔の彼の姿を見ればロンドは驚いてしまうかもしれない。
それほどに彼は喋らない男だったのだ。
この旅に出てからは喋るようになっているところを見ると、普段とは違う環境な分影響が出ているのかもしれない。
アリアはあまり深く考えていなかったことについて触れたロンドを見つめた。
周囲の変化にいち早く気が付ける人材なのだろうか。
そう思っていると、ふとアルマリアが言った。
「仕方ないですね。そろそろ時間も遅いですし、ユースティスに連絡してみますね……」
そう言うと、アルマリアはメイド服に付いていた二つのポケットのうちの一つを漁って何かを取り出した。
その姿を見ていたロンドが、彼女が取り出した小柄な形をした四角い箱のようなものに釘付けだった。
「姉ちゃん……、それは一体何だ?」
恐る恐る指を指して四角い箱を見つめるロンドが尋ねるように聞いた。
彼の物珍しそうな目を受けたアルマリアは、手に持っていた箱を指差して言った。
「これですか?見たことありませんか?通信デバイスーーーというものなのですが……?」
彼に尋ねているうちに、首を傾げてデバイスを見ている彼をアルマリアは見た。
この通信デバイスは世界共通で使用されている便利なアイテムとして持ち歩かれることが多く、離れ離れになった相手とのやり取りを可能とする優れものなのだがーーー
このデバイスを知らないということは、彼は今までこれを使用する状況に陥らなかったということになる。
一体いつから一人でやっているのだろうかとアルマリアは不思議に思った。
「見たことがねぇな……、それは一体どう使うんだ?」
見たことがないと答える彼が、更に使い方まで教えろと強要してきた。
よっぽど珍しかったのだろう。
仕方なくアルマリアは使い方について説明していく。
「使い方は、この四角になっているデバイスの画面をタッチすると、画面上に名前が表示されます。その名前にタッチして右端に付いている突起物を押すと、この名前の先の方に連絡が出来るというものです」
「おぉ……ッ‼︎」
その驚きようからして本当に知らなかったらしい。
少年のようなキラキラとした瞳でデバイスを見つめる彼に説明を加えたアルマリアは、画面上に表示されているユースティスという名前を確認して突起物を押した。
すると、押してからコールのようなものが鳴り響く。
数秒のコール後、デバイスから低く唸る男性の声が聞こえてきた。
『……どうした?』
少しだけググもった声がデバイスを通してアリア達に聞こえてくる。
そして、その声の主がユースティスであることが確認出来た。
「ユースティスですか?こちらアルマリアです。今どちらにいますか?」
ユースティスの問いに、デバイスを持っていたアルマリアが答える。
『あぁ、そんなことか。そうだな……少し待て』
数秒待っていると、ユースティスがドスの効いた声で言った。
『位置情報を送ったからそこにいる。宿は既に確保してあるから安心して来い』
ブチッーーー
と、ユースティスはこちらの意図を汲んで一方的にデバイスの通信を切った。
切られたデバイスを見つめてアルマリアは言った。
「だそうです。どうしますか?このまま宿に戻りますか?それとももう少し遊んで行きますか?」
アルマリアに二択の選択肢を迫られたアリアは、楽しそうな声が聞こえてくる街を見た。




