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3章 仲間

「私達は近くにあるホルノマリン街という街の村長に頼まれたのよ。無人が現れたから狩ってくれとね」

「あぁ、あの近くにあった街か……成る程な。とすると、あんたらは元からそこの住人って訳じゃないのか……」

「そうね。一言で言えば余所者みたいなものね」

「元からの住人じゃない……。てことは、あんたらは旅してるってことか?」


ロンドはこちらを見つめ聞いてくる。


「そうね……、私達は旅をしている。マイヤーポルノって街から出て来たの」

「マイヤーポルノか……、あの街も無人むじんに襲われて大変だったらしいな。それにしても一体何の旅だ?マイヤーポルノから出て来たって訳でもなさそうだし……。もしかして、無人を狩る流れ者みたいな奴か?」


少し違和感を感じたアリアだったが、気にせずに話を続けた。


「ううん……。いえ、それもあるけど、本当の目的は違う。私が旅をしている理由ーーーそれは……」


確かに、ロンドの言う通り無人を狩るのも一つだが、その他にもう一つ目的があった。


それはーーー。

アリアは一拍置いて深い深呼吸をして言った。


「実は……十年前に消えた友人を探してるの」

「友人?」

「ええ……」

「お嬢様、まだそんなことをおっしゃっているのですか?」

「いいじゃない‼︎」


アリアの瞳が薄っすらと曇る。

その姿をアルマリアは何とも言えない表情で見つめていた。


ここに来る途中の道中の会話で、その話題が出て来ていた。


アリアの昔の友人。

戦争が終息を迎える少し前に……姿を消した彼。


自分と同じ背丈で、自分より強く勇ましかった勇敢な彼の姿が今でも脳裏を離れない。


戦争時に消えたあの日。

あれからもう十年は会っていない。


今、どこで何をしているのか。

それすら不明だ。


まさかの考えは思いつかない。

無人に襲われていなければいいのだがーーー。


「困ったものだな。いつまでも現像に抱いているようでは、この先何があったかたまったもんじゃない」


ユースティスは砂を踏み鳴らしながら歩く。


彼の言葉に少し顔を歪めたアリアが不貞腐れた表情で彼を見つめる。


「私だって諦めようとは思ってるけど……でも、簡単には諦められないんだよ。会いたいって気持ちが消えない限り、私はこの戒めをずっと胸に抱いていくんだと思う」

「そうですね……。誰しも胸にある可能性を捨て切ることなんて、簡単には出来ない。ましてや、お嬢様のような芯の強い方なら尚更ーーー」

「だからと言って、もう十年も会っていない人間に今更会ったところで何が変わるというのだ?そもそもお嬢様がその少年のことを思っていたところで、相手の少年が忘れていたらお嬢様の気持ちは一方通行のままじゃないのか?」


ユースティスの言葉に反応したアルマリアが、溜息を交えながら首を横に振って言った。


「ユースティスは何も分かってないですね。例え一方通行だったとしても、自分の気持ちが変わらなければ自然と相手に伝わるものなんですよ?」

「待ってアルマリア。それだとまるで、私の思いが一方通行で伝わってないみたいな解釈にならない?」

「そうなるな……。ふっ、結局のところアルマリアも、俺と同じ考えに至っているということだな」

「……」

「ねぇ、アルマリア。何で何も答えてくれないの?ユースティスに言い返してよ。肯定なの?否定しないのは肯定だからなんだよね?」


三人の論争が激しさを増して行く。


そんな彼らのやり取りをそばで見ていたロンドが三人の顔を見つめて言う。


「おーい、お前ら呑気過ぎだろ……。幾ら無人むじんが現れていないからってなーーー」


呆れるロンドが頭に手を置いて下を向く。

すると、突然アリアがその歩を止めて、ロンドの方を向いた。


彼女は何か言いたげにロンドを見てくる。


「そう言えば、さっきから気になってたんだけど、その無人むじんって呼び方ーーー」

「ん?呼び方ーーーあぁ、無人むじんって言い方か?何か違うのか……?」

「俺達はあいつらを無人むじんという呼び方で呼ばない。無人アルカナと呼んでいる」

無人アルカナ?随分と変な呼び方だな」


ロンドはユースティスが言った無人アルカナという言葉に首を傾げて言う。


「ロンド。その呼び方は何処で?」

「ん?あぁ、実は東洋に親しい友人がいてな。昔、そいつがあいつらを見た時にそう呼んでたんだ。そこから俺もやつらを無人むじんって呼ぶようにしてる」

「東洋……」


何か思い当たる節があるのか、東洋という単語を聞いたユースティスが訝しげに顔を歪ませた。


彼の神妙な面持ちにアリアが気づく。


「ユースティスどうしたの?東洋に何かあるの?」

「いや、特にはないな……」


口では否定しているが、何かあるのはアリアには分かった。


これでも長年ユースティスを見てきている。

隠し事なんてものは殆どが通じない。


彼女の何か言いたげた顔を見たユースティスは、やがて観念したかのように溜息を吐いて答えた。


「東洋には……、昔の友人がいる」

「へ〜、そんなこと今まで一度も話してくれなかったのに……」

「言う機会が無かったからな。それに言ったところでどうなるとも限らない。お嬢様には関係のない事だからな」

「酷い……」


ユースティスの痛烈な言葉を痛み受けしたアリアが目に涙を浮かべ泣きベソをかくが、


「ふっ、俺に泣き言は通じないぞ?」


ユースティスの嘘がアリアに通じないように、アリアの泣き言もまた、ユースティスには通じなかった。


「お前ら……、いつもそんな感じで旅を続けているのか?」

「そうだよ?」

「どんな神経してるんだよ……。よくそれで今まで生きてこられたな……」

「お嬢様は心のお強い方ですからね。この程度では動じませんよ」

「単に鈍感なだけだがな」

「二人とも正座」


馬鹿にされていると察知したのか。

ピシャッと言ってアリアは二人に指示をする。


四人が永遠と続く砂丘を歩いていると、不意に写り込んでくる光景に目が止まった。


「これは……」


最初に声を上げたユースティスが、感嘆の声に浸る。

彼が声を上げた理由。


それは、この光景を目の当たりにするのは初めてだったからだ。


彼らの目の前に現れた悠然とした姿が鮮明に目に写り込んできた。


何故なら、彼らの視線の先。


そこに砂浜に浮かぶ遊覧船のような巨大な船が目の前に現れたからだ。


どういう原理でその場にあるのかは分からない。

ただ、何とも形容しがたい雰囲気を醸し出していた。


その光景に目を当てていたアリアが息を呑んだ。


「……」

「何でしょう?船のようにも見えますけど……」

「なんだぁ?お前らそんなことも知らないでこの場所に来たのかよ」

「ロンドはこれが何か知ってるの?」


アリアは船に近寄って指を指した。


何やら見たことがあるような口振りでロンドは言った。


彼はちらりと横目でアリアの顔を向いて答える。


「この船はな、かつて戦争で活躍した空中船だ。確か……怪我した人間を運ぶための船だったらしい。こいつのおかげで、戦争時にいくつもの人々が救われたって異名が立ってるんだぜ」


ロンドの話を聞いていたアリアは驚きが顔に出ていた。


「そんな凄い代物がどうしてこんなところにあるの?」

「さぁな?だが、珍しいものだぜ?なんせこいつは……戦争終結と同時に失われた遺物みたいなものだからな。ここにあるっていうことは……」

「昔ここは戦争地だったということか?」

「そういうこった」


成る程とユースティスは唸った。


「戦争の僻地へきちだったところに無人は現れる……?」

「まさか?そんなことあり得るはずがない」

「確かにそこのにいちゃんの言う通りだ。もしそうだとしたら、今頃至る所で無人が発見されているだろう。だが、実際には無人の発見は世界全土には至っていない。そのことを考えると、無人と戦争は関係ないだろう」

「そっか……」


残念そうにアリアは言った。


もしその仮説が本当だとしたら、今いる無人達を一掃出来るかもしれない。


そう考えていたのだが……。


どうやらそれは叶わない夢物語らしい。


だが、仕方のないことだと割り切るしかない。


ある程度の予測が出来ればどれほど楽だと思ったが、楽な道など無いのだと。


そう痛感させられる。


「しかし……あれだな。さっき無人を倒したが、他にも無人がいる様子が全然見当たらないな」

「……え?」

「……ん?」


ロンドの顔を見て惚ける。

対して彼もまたアリアを見つめてキョトンとしていた。


「ということは、もう依頼終わっちゃった感じ……?」

「依頼?あぁ、さっき言ってたな」

「無人討伐の依頼を請け負っていたのだが、あんたが倒したのなら俺達はもう目的を達成したと言ってもいい」

「けど、何でしょうね?私達が倒していないのに報酬を貰うっていうのが……」

「罪悪感があるというか……なんというかだよね」


三人がロンドの顔を見ながら言う。


確かに、自分達が成していない功績で実績を上げるなど、三人が許すはずもなく。


「ロンドといったか?報酬はお前が受け取ってこい」

「は?」

「そうですね。私達は何もしていませんし、貴方が受け取るのが無難かと……」


両手を前にしたアルマリアが凛とした立ち振る舞いで言った。


三人からの意見を受ける。


しかし、当の本人であるロンドは何が何だか分からないといった表情で口を開けている。


「ロンド?」

「いやいや、待て待て待て。話が全く見えないんだが……?」


完全についていけなかったロンドがキョトンとした顔で三人を見つめた。

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