岩棚の声
猟師ファロは、赤目狼の棲む岩棚で初めて聞く鳴き声に出会った。狼の声ではなく、乾いた木を打つような短い音が続いていた。斥候ネインは音のする方へ進もうとしたが、霧が立ち込め、境界が近いことを思い出して立ち止まった。
二人は近くの高台へ回り、岩棚を見下ろした。そこには折れた木箱が一つあり、小さな硬皮獣が角をぶつけて遊んでいる。音は木箱の板が岩に当たるたびに響いていたのだ。
ファロは笑ったが、ネインは木箱の文字を見て顔をしかめた。城から運ばれた物資に使う箱と同じ印がある。補給品が奪われたのか、古い空箱が流れ着いたのかは分からない。
岩棚へ降りる道は境界の向こうにあり、二人では行けない。硬皮獣が箱を押してこちらへ転がすのを待つわけにもいかなかった。ネインは望遠鏡で印を写し、破損の程度を記した。
帰り道、ファロは獣の子が楽しそうに遊んでいたと言った。ネインは同意したが、そこにあった箱を誰が置いたのかは気にかかっていた。
砦の物資係へ確かめると、同じ印の箱は百以上使われていると分かった。一つ失ってもすぐには気づかない。物資係は出入り帳を改め、数を数え直した。
硬皮獣の子は木箱を叩くたび、周囲の鳥を飛び立たせていた。ファロはそれを見て、村の子供が古い鍋を太鼓にして遊んでいたことを思い出した。獣にとっても音が面白いのかもしれない。ネインは笑いをこらえながら箱の大きさを測り、城の物資係へ印の位置まで伝えた。遊ぶ獣を追い払ってまで確かめる必要はないと、二人は判断した。
翌朝、岩棚からは音が聞こえなかった。木箱が割れたのか、獣が別の遊びを見つけたのか。森は答えないまま、いつもの鳥の声を返してきた。




