石壁の五本目
学匠モールの弟子ソラは、石壁に刻まれた五本の線を羊皮紙へ写して比べた。最初の四本は浅く、最後の一本だけ深い。なぜ違うのか、彼は何通りもの図を描いた。
モールは剣の痕だと断定しなかった。工具の刃幅が同じなら、同じ人間が同じ動作でつけたとも限らない。誰かが日時を数えた印かもしれず、古い紋章を消そうとした途中かもしれない。
水路職人ギズが資料を見に来た。彼は五本目の位置が雨だれの落ちる筋に重なると指摘した。石壁の下には昔、水が流れる溝があったという。水を止める板が残っているなら、地面の湿り方も変わるはずだった。
ソラは石壁を直接見に行きたがった。しかし学匠の部屋から東の石壁までは長い道があり、途中には魔族が越えられない境界もある。モールは弟子へ、行ける者が撮った写しを丁寧に読む仕事もあると言った。
午後、斥候ネインから新しい絵が届いた。五本目の線の周りに、以前はなかった小さな欠けが見える。岩が自然に割れたのか、誰かが再び触れたのかは分からなかった。
ソラは欠けの広がりを測るため、同じ大きさの小石を三つ机へ並べた。石の影を動かせば、光の角度によって欠けが大きくも小さくも見える。モールは記録の写しに観察した時刻を加えるよう命じた。森の斥候が描く図は、天候や光の向きでも印象が変わる。弟子は次の写しを頼む手紙を書き、無理に境界へ近づかないよう一行添えた。
ソラは二枚の絵を重ね、欠けの広がりを測った。答えより先に変化だけが見つかる日がある。モールはその数を書き留め、机の上の石を一つだけ動かして紙の端を押さえた。




