二本の矢
砦の矢倉で、古い矢が二本だけ折れていた。弓兵は誰かが使ったと騒いだが、隊長レシュは矢の並びを見て、湿気で軸が曲がった可能性を調べさせた。筒の底には薄い水が溜まっている。
兵ロアは矢倉の屋根を確認した。穴はなかったが、壁のつなぎ目から雨が吹き込み、矢の羽根を濡らしていた。弓兵の一人は砦の修理ばかりで剣を振る暇がないと嘆いた。
その午後、見張り台から人影が見えた。四人組ではなく、鹿を追う人間の猟師が二人。背中に弓を担ぎ、こちらを見ても足を止めなかった。レシュは望遠鏡で手元を確かめたが、武器を向ける動きはない。
ロアは警戒を解くのが早すぎるのではないかと問うた。レシュは、疑う理由があるときに警戒を強めるのと、すべての者を敵と決めるのは違うと答えた。
夜、弓兵たちは矢の保管場所を移した。折れた二本は捨てず、羽根の状態を調べる教材にした。なぜ曲がったか確かめれば、次の矢を守れる。
砦の炊事係は屋根の修理を終えた兵に、熱い豆の煮込みを出した。誰かが剣の腕を試したいと言い、誰かが明日は雨が止めばよいと返した。日々の不満は消えないが、話せる仲間がいるうちは持ちこたえられる。
弓兵の一人は、折れた二本が亡き父から譲られた矢筒に入っていたと告げた。レシュは矢を替えるよう勧めたが、矢筒まで捨てる必要はないと言った。兵は内側を乾かして油を塗り直し、父の刻んだ印を指でなぞった。武具を新しくすることは、古い持ち主を忘れることとは違う。乾いた矢を一本入れると、筒はまだ十分に使えた。
明朝の矢倉には、乾いた木の匂いが戻った。




