戻らぬ見張り
東砦の夜勤表に空欄ができた。見張りの一人が所定の時間に戻らず、隊長レシュは鐘を鳴らすか迷った。勇者が近くを通る可能性はあるが、見張りが寝過ごしただけなら大騒ぎになる。
最初に探しに出たのはベドとロアだった。見張りが最後に立っていた石段には水筒が残り、靴跡は水路の方へ続いている。霧が濃く、灯を掲げても十歩先は見えなかった。
ロアは足跡を急いで追おうとしたが、ベドが引き止めた。足元の石は滑りやすく、二人とも落ちれば報告する者がなくなる。石段を一つずつ確かめて進むと、向こうから弱い声がした。
見張りは水路の脇で倒れていた。敵に斬られたのではない。熱を出してふらつき、段差から落ちて足を捻ったのだ。彼は申し訳なさそうに謝り、任務中に眠ったわけではないと繰り返した。
ベドはまず毛布を掛け、ロアへ担架を頼んだ。原因の説明は医官へ渡せばよい。砦の門へ着くころには雨が降り出し、二人の肩は濡れていた。
医官が診ると高い熱があり、城下で流行している咳と似ていた。レシュは出勤の前に体調を申告させることにした。勇者を待ち受ける場所で、病を隠して立つ兵を増やしてはならない。
見張りは寝台で目を覚ましたとき、最初に自分の槍の所在を尋ねた。ユリは壁へ立てかけたと教え、腕を動かさないよう言った。槍があるだけで安心するのかもしれない。レシュはその様子を見て、病んだ者が任務を手放すことを恥と感じないよう、勤務表に病休の欄を設けた。代役を誰が務めるか先に書いておけば、本人も休みやすくなる。
見張りが眠りに落ちると、ロアは置き忘れられた水筒を洗った。敵を見つけられなかった夜が、誰かを救う夜になった。




