雨のない雷
東の森から雷鳴が聞こえたのは、空に雲の少ない日だった。鳩番テオが見張り台へ登ると、遠い石壁の向こうで青白い光が一度だけ跳ねた。続けて低い音が来たが、雨粒は落ちなかった。
隊長レシュは雷だと決めず、見た色と音の間隔を尋ねた。兵ベドは人間の術かもしれないと言い、ロアは石壁に落ちたのだろうと考えた。どちらも確かなことではない。
斥候ネインは森の内側を調べに出た。焦げた木は見つからず、獣が逃げた痕も薄い。石壁の手前には新しい人間の靴跡がいくつかあったが、四人組のものとは限らない。彼は足跡の幅だけを写し取った。
砦の台所では、雷鳴に驚いた犬が鍋を倒していた。炊事係は大きなため息をつき、こぼれた粥を片付けた。兵たちは空の光より今夜の食事が減ったことに困り、村から余った豆を借りる相談を始めた。
夕刻、鳩が一羽戻らなかった。テオは空を眺め、風の向きと雲の高さを帳面へ書いた。鳥が帰らない日はこれまでにもあったが、今日のことを明日の誰かが調べるなら、細かい記録が必要だと思った。
青い光を見た村の老人は、昔も晴れた空で雷を聞いたと話した。何十年も前のことで、同じ場所だったかは覚えていない。テオは話を途中で遮らず、日付の代わりに当時の作物や川の様子を尋ねた。老人はその年に梨がよく実ったと答えた。記憶を確かめるために作物の記録を見れば、季節だけは分かるかもしれない。砦の古い帳面を探すことになった。
遅れて戻った鳩は、翌朝、鳩舎の屋根で眠っていた。脚の筒は空だった。テオは笑って餌を置いたが、石壁の光についての問いはそのまま残った。




