傷の写し
医官セフィは古い治療簿を棚から降ろした。人間の死体を診た日の欄だけ、紙が何度も開かれて柔らかくなっている。そこには右頬の傷の長さ、瞳の色、左右の指の節まで書き留めてあった。
助手のリグが理由を尋ねると、セフィは三度目の夜の話をした。討ち取られた男は既に冷たく、呼吸も鼓動もなく、頭部と胴体は切り離されていた。治療の余地がないと判断し、二人の医官と護衛が立ち会って埋葬した。
「それなら、もう歩けないでしょう」
「私もそう思った」
セフィは窓を開けた。薬棚から立ち上る苦い蒸気が、石造りの部屋に溜まっていた。庭では負傷兵の一人が杖の使い方を習っている。傷を負った者の回復には時間がかかる。欠けた指は戻らず、失った脚も生えない。
三度目の男は、二度目に使わなかった光の術を使った。一度目より脚が速く、二度目より剣が重かった。それもすべて記録した。死んでいたはずの者の力だけが増してゆく理由は、医術の棚にはなかった。
リグは筆を持って尋ねた。
「似た顔の者がいる可能性は?」
「もちろん調べる。可能性を捨てる医官は、患者を先に捨てることになる」
彼女は斥候の証言を別紙に写し、検分に使った道具が保管されているか確認させた。刀傷の形、歯並び、古い火傷。まだ比べられるものはある。
保管室から戻ったリグは、当時使った検分針と布を見つけてきた。針はきれいに洗われていたが、包み紙に三度目の夜の立会人の署名がある。セフィはその名を一つずつ確かめた。誰かの思い違いなら、ここで気づけるはずだった。だが署名は揃い、検分した時刻まで同じ記録に残っていた。セフィは布を畳み直し、棚へ戻した。
夕方、セフィは庭の兵に新しい杖を渡した。彼は両手で受け取り、ゆっくり三歩進んだ。セフィはその三歩を見届けてから、空欄の残る新しい紙へ日付を記した。




