雨を待つ畑
西の集落では、魔王城から届いた地下茸が天日に並べられた。乾かせば冬の粥に入れられる。畑を預かる少女ミナは一つをつまみ食いして祖母に叱られた。祖母の手には、雨雲の形を刻んだ古い木札がある。
今年は雨が遅い。泥を好む黒麦の芽は低く、井戸の水位も下がっている。村長は雲を呼ぶ祈りを頼んだが、祭祀係は井戸の修理を先に勧めた。祈りだけで水桶は満たせない。
城から荷を運んできた青年カルは、村人に混じって石積みを直した。城門から西の集落までは行けるが、それより先の白い丘へ向かおうとすると足が止まる。村の子供たちはよく知っていて、荷を運ぶときは丘の手前で彼に別れを告げる。
「白い丘の向こうには何があるの」
ミナが尋ねた。カルは笑って首を振った。
「行ったことがない」
「お父さんも?」
「お父さんも、その父さんもだ」
丘向こうの空は見える。そこを渡る鳥も見える。だが足で確かめた者はいない。カルはそれを不自由だと思う日もあれば、ここで生きるには十分だと思う日もあった。
井戸の底から泥を上げていると、東の街道を旅した行商人が立ち寄った。森の狼が以前より静かになったと話している。村長は事情を聞こうとしたが、商人はその先を知らなかった。
ミナの祖母は、若い頃に白い丘の手前で大雨に遭った話をした。丘の向こうでは日差しが見えていたのに、自分たちの畑だけが水につかったという。雨雲は境界を守ってくれなかった。だから村人は、行ける範囲に水の逃げ道を掘り、毎年泥をさらうようになった。ミナは祖母の話を聞き、翌朝の井戸修理で使う小さな桶を庭へ出した。
夕暮れ、ミナは乾燥棚を覆った。東の森が遠くで変わっていても、今夜の仕事は茸を雨に濡らさないことだった。祖母は木札を井戸の縁に置き、明日の空を見た。雲はまだ薄い。




