門番の約束
北門の衛兵ハルドは、門の蝶番に油を差すのが得意だった。年の離れた弟が手伝いに来る。弟は守備隊に入りたがっているが、ハルドは文字を先に覚えろと言い聞かせた。門の記録を読めなければ、来客も荷車も数えられない。
今日の門には、丘向こうから来た薬商人が並んでいた。魔族は丘の境界を越えられないが、人間の商人は越えて来られる。荷の一つには、城内では育たない青い葉が詰められていた。
商人は値を吊り上げようとした。流行り病に効くという。ハルドは脇にいた医官の使いへ目を向けた。使いは葉を一枚噛んで顔をしかめ、ただの香草だと断言した。商人は黙って値札を外した。
「病気の者がいるのか」
ハルドが尋ねると、商人は道中で喉を痛めた男を見たと話した。辺境に新しい病が入ったのではないかと疑ったが、場所を確かめると冷たい川辺で眠った旅人だったらしい。
昼には門が空いた。弟が持ってきたパンを分け、ハルドは軍靴の紐を締め直した。壁の向こうの土地へは出られない。それでも門を開ける相手にはいろいろな顔がある。人間も魔族も、荷車を引いているときの苦労は似たようなものだ。
日暮れ前、城内へ通された斥候ネインが戻って来た。東の森へ帰るための通行札を差し出す。ハルドは札に押された印を見て、弟の前では何も尋ねなかった。
門の番所では、商人の子供に貸す毛布を二枚増やした。人間の旅人が以前より多くなり、夜に城へ着く者もいる。ハルドは弟と一緒に毛布へ番号を縫いつけた。返却されないこともあるが、寒い夜に毛布を断られるよりはよい。弟は縫い目が曲がったのを恥ずかしがったが、ハルドは文字の練習にもなると笑った。
門が閉まるころ、弟は文字の練習帳を見せた。最初に書けたのは、自分の名ではなく「門」だった。ハルドはその字を指でなぞり、もう一度書くように言った。




