名のない剣
護衛長ダルムは城の武器庫で、三度目の勇者が使った剣の記録を探した。柄は押収されたが、刃は折れたため処分されたとある。いま森で見られる剣の柄には、同じ焼け跡が残っている。もし同一の剣なら、何が元へ戻ったのか分からない。
武器庫番の老人は、折れた刃を溶鉱炉へ送った日のことを覚えていた。柄は別に木箱へ入れたはずだった。ダルムが箱を開くと、中には『剣柄』と書いた札だけが残っていた。
老人は顔色を変えた。誰がいつ取り出したのか、貸出帳に記録がない。盗難か、管理の不備か。それとも何年も前に箱を移したのか。ダルムは責める前に倉庫の配置図を見せるよう頼んだ。
午後、二人は古い棚を動かし、別の箱を見つけた。そこには儀礼用の剣柄が三本入っていたが、焼け跡のあるものはない。老人は何度も謝った。ダルムは謝罪を受け止めつつ、今見つからないという事実だけ報告することにした。
魔王ヴァルゼンはその報告を聞いて、老人を罰するなと命じた。失われた品が戻るわけではなく、恐れで口を閉ざさせれば次の欠落に気づけない。
武器庫番の老人は、棚に付いた小さな引っかき傷へ指を当てた。かつて品物を運ぶ際に残した跡だという。傷を手がかりに棚を移した時期を調べると、三度目の討伐のあとに二回模様替えが行われていた。移動した者の記録が残っている可能性もある。ダルムは倉庫の古い勤務表を探すよう頼み、老人が自分を責め続けないよう話を切り上げた。
夜、武器庫番はすべての棚へ新しい番号を貼った。ダルムは最後の棚を一緒に数え、消えた剣柄の欄を空白のまま残した。空白は失敗の印でもあり、探すべき場所の印でもあった。




