父の鉛筆
城下の学校で教師サラは、子供たちに家の道具を一つ描く課題を出した。農家の子は鍬を、パン屋の子は窯を、兵ベドの息子は父の鉛筆を描いた。短く削られた鉛筆には、持ち手に小さな傷がある。
「お父さんが使っていたの?」
サラが尋ねると、少年は頷いた。砦へ行く前、父が文字を練習するために使ったものだという。父は字が得意ではなかったが、いまは毎月手紙を書いてくる。少年は絵の横へ、父が最初に覚えた言葉を書いた。
午後、学校へ東の砦から便りが届いた。ベドは無事だが、兵の仕事が忙しく、しばらく帰れないとある。サラは家の者へ伝える前に、少年と一緒に読み、読み違えていないか確かめた。
少年は返事に何を書くか迷った。怖いと書けば父が帰ってきてしまうかもしれない。元気だとだけ書けば、自分の心配が伝わらない。サラはどちらか一つを選ばなくてよいと言った。
彼は『おとうさんがぶじでよかった。ぼくはすこしこわいです。でも、がっこうへいっています』と書いた。文字はまだ揃っていなかったが、消しゴムで何度も消すことはしなかった。
少年の友達は鉛筆が短いのを笑ったが、彼が父の物だと告げると黙った。翌日、その友達は自分の家にあった握りやすい木の筒を持ってきた。鉛筆を差し込めば短くても書けるという。少年は礼を言い、父の字を真似て自分の名を書いた。上手な字にはまだ遠いが、その一文字を見て友達が嬉しそうに頷いた。
帰り道、少年は父の鉛筆を小箱へしまった。短くなりすぎて文字を書きにくい。それでも指の跡が残っており、父がまた帰って来るまで持っていたかった。サラは窓から少年の背を見送り、教室の灯を消した。




