泥の逃げ道
水門の板を抜く作業には、ギズのほかに三人の職人と、下流の畑を預かる老婆が立ち会った。老婆は畑の土が柔らかくなっていると告げ、家の裏の道へ水が回らないか心配していた。ギズは掘った溝へ少しずつ水を流し、木札を浮かべて速さを見た。
最初の板は固く、槌で叩くと古い木屑が落ちた。父親は横で継ぎ目を確かめ、無理に力を掛けるなと指示した。壊して開けるのは簡単だが、閉じられなくなれば次の雨に困る。
昼過ぎ、板はようやく動いた。水は思いのほか冷たく、泥を含んで逃がし溝へ流れた。職人たちは板を支える腕を交代し、老婆は畑の縁へ藁を積んだ。手伝った若者の一人は、足を滑らせて腰まで濡れ、周囲を笑わせた。
水槽への流れは目に見えて強くなったが、ギズはすぐ成功と報告しなかった。下流へ水が押し寄せていないか、別の職人に確認させた。暗くなる前に戻った職人は、畑に泥は入ったが苗を倒すほどではないと話した。
城の庭ではトゥナが水位の新しい線を見比べた。水は上がっている。ただし西の村の雨不足が解消したわけではない。ギズは喜ぶより先に、どこから水が来てどこへ流れたか記録を残した。
若い職人は濡れた服を替えに戻る途中、逃がし溝へ落ちた葉を見つけた。葉が詰まれば水が別の方へ溢れる。彼は竹の熊手で拾い、細い網を取り付ける案を出した。父親は網の目を細かくしすぎるなと教えた。木の枝まで止めようとすればすぐ塞がる。流すものと留めるものの区別が、水門の働きを左右するのだった。
夜、父親は使った木の板を洗って乾かした。自分が若い頃に作った地図がまだ役に立ったことを、息子には照れくさくて言えなかった。




