水門の親子
城下の水門は、職人ギズと父親が長く守ってきた。父は足が弱くなり、今は水門の小屋で図面を読む役に回っている。ギズが水槽の水位の話を持ち帰ると、父は古い木箱を開け、何枚もの薄い板を取り出した。板には水路の分岐が小さく刻まれている。
「紙が濡れても残るようにしたんだ」
父の若い頃、水路が増水して図面が駄目になった。板の地図はその後の修理で作られたものだという。ギズは板を床に並べ、庭へ届く水がどの分岐から来るかを確かめた。
ある水門の位置が、今使っている図面と違っていた。そこはかつて大雨のときだけ開ける逃がし口で、通常は板を差し込んで閉じてある。ギズは父と一緒に現場へ行き、確かめることにした。
小屋から現場へ向かう細道には段が多い。父は杖をつき、ギズは急かさず歩いた。水門へ着くと、古い板は水に押されて少し曲がっていた。すぐ外せば勢いよく水が流れ、下流の畑へ泥が入るかもしれない。
父はまず水を逃す溝を掘れと言った。ギズは町の職人へ頼み、日が暮れる前に浅い溝だけを作った。板を動かす作業は明朝へ回す。水路に急ぐ事情があっても、下流の家まで夜中に水を浴びせるわけにはいかない。
父は木板の古地図を並べながら、かつて自分が水門を閉じ忘れた話をした。下流の畑を泥だらけにし、村人たちと夜通し溝を掘ったのだという。ギズは初めて聞く失敗に驚いた。父は隠しておく方が格好よかったかもしれないが、同じ間違いを息子にさせたくなかったと笑った。二人はその夜、作業道具を三組に分けて明朝の持ち場ごとに置いた。
帰り道、父は小屋の窓に灯がついているのを見て微笑んだ。ギズが子供の頃と同じ灯だった。家へ着くと、二人は板の図面を床へ戻し、明日の掘り方を炭で書き直した。




