庭の水位
庭師トゥナは魔王城の中庭で、水槽の縁についた白い跡を測っていた。雨不足の西だけでなく、城でも水が少しずつ減っている。井戸番は水路の勢いが変わっていないと言ったが、朝の音を聞き慣れた厨房の女は、夜明け前の流れが鈍くなったと感じていた。
トゥナは水路職人ギズを呼び、庭の水槽へ続く細管を調べた。底には根が入り込み、入口の網には枯れ葉が詰まっている。二人で泥を掻き出すと、流れは半分ほど戻った。それでも水槽の跡には届かない。
「上流で水を使っているのかも」
ギズはそう言ったが、魔族の職人は上流のある地点より先へ行けない。人間の通行人に調査を頼む案も出たが、危ない石窟へ人を送り込む理由としてはまだ弱かった。
その日、庭では薬草の苗を植える予定だった。トゥナは半分だけ植え、残りを鉢へ移して日陰に置いた。苗をすべて庭へ出せば、水が不足したとき守りきれない。医官セフィは鉢を見て、それでも薬草の数を減らさずに済む工夫を考えてくれたと礼を言った。
午後、謁見の間へ水差しを運んだ女が、朝より軽くなった水槽の話をした。魔王ヴァルゼンは水路を調べろと命じたが、境界の向こうへ誰かを無理に送れとは言わなかった。分からないことを確かめるにも、代価を払う者がいる。
水槽の浅い場所には、夜ごと小さな虫が集まる。トゥナは水が減ったせいで虫が増えたと思ったが、よく見ると乾いた縁へ卵を産んでいた。医官セフィは薬草の苗を守るため、水を少し移してもらった。庭と診療所は同じ水を使っており、どちらかだけを満たすことはできない。二人は使う量を紙へ書き、朝の水位と見比べるようにした。
日暮れ、トゥナは水槽の縁に新しい印を刻んだ。水は急には戻らなかった。彼女はただ、明朝の水位が分かる場所を残した。




