↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は何度でも蘇る。魔王は玉座の間から出られない。  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
73/228

紋章の裏面

学匠モールは東の石壁から写された紋章を、乾いた机の上へ広げた。古い図書に似た印はあったが、正確に同じものは見つからない。弟子ソラは紋章の中央に描かれた波の線が、城下の古井戸の石組みに似ていると気づいた。

「井戸の印なら、どうして東の森に」

モールは答えず、ソラに古い水路の図面を持ってこさせた。図面は三代前の職人が描いたもので、線の太さも距離も一定ではない。石壁の場所に、消されたような黒い染みがある。

弟子はすぐに秘密の入口だと言いかけた。モールは紙の裏面を見せ、染みが裏から滲んだインクだと教えた。地図の空白を都合のよい答えで埋めれば、現地で足を踏み外す。

二人は石壁の傷の角度を測り直した。新しい五本の線は刻まれた高さが揃っていない。背の違う者が彫ったのか、一人が段差に立って刻んだのか。ソラは両方を記した。

昼には庭師トゥナが来て、石壁の苔について意見を求められた。トゥナは苔が剥がれた理由を断定しなかった。風向き、水滴、獣の体が擦れた跡。城の庭では同じ壁でも一歩違えば苔の生え方が変わるという。

ソラが図面の余白を見ていると、古井戸の水くみ歌の歌詞が浮かんだ。歌には『三つ曲がれば冷たい水』という一節がある。モールは面白がったが、昔の歌の三つが水路の三叉路とは限らないと釘を刺した。ソラは歌を資料の端へ記し、翌日は井戸の年寄りに由来を尋ねてみようと決めた。書物以外にも、土地に残る記憶はあった。

夕方、モールは紋章の写しを布で包み、図書棚ではなく作業机へ残した。調べる手がかりは増えたが、まだ誰も石壁の向こうを歩けない。ソラは窓を閉める前、濡れた土から上がる夜の匂いを吸った。答えのない資料にも、明日開く頁は残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。