渡し守の耳
渡し守ケルンは、川向こうの人間の村で船底の板が高くなっていると聞いた。必要な木材は同じなのに、上流の水路が荒れ、荷を運ぶ時間が倍になったらしい。ケルンは仲間の舟を確かめてから、南の詰所へ出向いた。
グラドは船を増やす提案にすぐ頷かなかった。川のある地点より先へは魔族の舟頭が進めない。人間の舟頭を雇わなければ、途中で積み荷を移し替えることになる。かえって時間が掛かる場合もあった。
二人は船着き場で荷の重さを試した。魚の樽、乾燥薪、薬草箱。重い樽を一度に積むより小分けにすれば、浅い水でも舟が進む。魚売りリナは樽を三つに分ける代わりに、朝の市場を開く時間を遅らせる必要があると話した。
交渉中、川下から古い木片が流れて来た。表には北の橋で使われる青い印が描かれている。ケルンは拾い上げ、流木なのか修理中の部材なのかを確かめるために干しておいた。川は道より遠くから知らせを運ぶことがある。
夕食前、人間の舟頭が一人雇われた。名はコルム。彼は川向こうの村へ戻りたいだけだと言い、軍の荷を運ぶつもりはないと明言した。グラドは条件を書面へ残し、無理に拡大しなかった。
コルムは舟の縁に付いた古い刻みを見て、父の舟にも同じ印があったと話した。ケルンは舟を買った年代を訊き、川の氾濫後に造られた型だと知った。浅瀬に強い理由が分かれば、次に舟底を替える際に役立つ。二人は互いに操船を任せられる距離を実際に測り、岸辺に一本だけ丈夫な杭を打った。そこで舵を渡せば、境界を意識して慌てる必要がなくなった。
翌朝、最初の荷は粉挽き小屋の麦袋となった。船底をこする水音を聞きながら、ケルンは境界の手前で舵をコルムへ渡した。舟は同じ水面を進んだが、二人が立てる場所は違っていた。




