鉄の配分
鍛冶師ゼマの工房へは、東砦から矢尻の注文が来ていた。同じ日に水車番ラウネから歯車の修理も頼まれ、学校からは窓の蝶番が届いた。弟子ニコは戦の備えを先にすべきだと言ったが、ゼマは紙を広げて重さを測った。
矢尻を必要数作れば、今月の良い鉄は残らない。水車の歯車を直さなければ粉が挽けず、学校の窓が閉まらなければ寒い日に子供が手をかじかませる。誰か一人に全量を渡せば済むほど、鉄は余っていなかった。
ゼマは城の執政官メルドへ使いを出し、古い鎧を溶かす許可を得た。錆びた胸当てから採れる鉄は質がまちまちだったが、蝶番や留め具なら十分だった。矢尻には良い鉄を回し、水車には継ぎの金具を作った。
ニコは鎧の裏側に刻まれた古い名前を見つけた。何十年も前の衛兵のものらしい。ゼマは名のある板だけ溶かさず脇へ寄せた。戦に使った鉄をもう一度戦に使うとしても、その持ち主の名まで消す必要はない。
日が落ちるころ、学校の使いが蝶番を受け取りに来た。ニコはまだ熱い金具を渡そうとして、ゼマに手を叩かれた。冷まして油を差してから渡す。急ぎの注文ほど基本を省くなと教えられた。
古い鎧を運んだ兵は、これまで倉庫を守ってきた品を壊すのは忍びないと言った。ゼマは鎧の留め金を手に取らせ、今のままでは肩に合わず、兵の体を傷つけると説明した。形が変わっても鉄は残る。兵は小さく頷き、溶かさず残した名板を預かった。後日、その名を刻んだ小さな札が、兵舎の壁へ掛けられることになった。
翌朝、工房には水車から粉の匂いが漂った。村で挽いた小麦がパンになり、砦の兵もそれを食べる。鉄をどこへ配るかという相談は、武器を何本作るかという話だけでは終わらなかった。




