鐘を分ける
鳩番テオは砦の鐘を三つに分けて鳴らす案を持ち込んだ。火事も獣も侵入者も同じ鐘では、村人は何を持って逃げるべきか分からない。若い兵ロアはすぐ賛成したが、門番ユリは眉をしかめた。音を細かくしすぎれば、眠りの浅い老人ほど間違える。
テオは鐘楼に登り、長く一つ、短く二つ、ゆっくり三つの音を試した。坂の下にいる村長からは、二つ目が川音に紛れると返事が来た。皆は鐘の位置を変えようとしたが、古い石梁は重い鐘を移せるほど丈夫ではなかった。
結局、火事は長い鐘、避難は続けて三度、獣の接近は角笛という簡単な決まりになった。ユリは音を聞き分ける役を買って出た村の子供たちに、訓練だと断った上で一回だけ聞かせた。子供は喜んだが、傍らの犬たちは一斉に吠えた。
午後、空から戻った伝書鳩の脚に泥がついていた。東の石壁の周辺を飛ぶ鳥が、最近は同じ枝へ降りないらしい。鳥の気まぐれか、そこにいる人間を避けているのか、テオには分からない。彼は決めつけず、枝の高さを図面へ記した。
鐘の音を試したとき、村の耳の遠い男が何も聞こえなかったと申告した。皆が困って黙ると、テオは屋根に立つ旗を指した。音だけでは届かぬ相手には、目で見える知らせを用意すればよい。翌朝、赤い布が一本砦へ運び込まれた。縫い目を丈夫にするため、ユリが夜番の休憩中に針を通した。旗を掲げる者の名前も忘れず決めた。
夕暮れ、ユリは母が育てた白い花に水をやった。鐘の音は止んでおり、花びらには霧だけが残っている。避難の仕組みを作ることと、避難せずに済む日を願うことは、矛盾しない。ユリは鳩の箱を戸口の雨の当たらない場所へ移し、鍵を掛けた。




