渡らない朝
東の砦の門が開く前、隊長レシュは避難名簿の順を入れ替えた。名の早い順ではなく、歩けない者、子を抱く者、荷を自力で運べる者の順にしたのである。村長はそれを見て、畑に残る者の欄を指した。名簿には二軒の家がまだ載っていなかった。
「鐘が鳴ったら来ると言っています」
「鐘を待たせるな。二軒とも今日、顔を見てくれ」
ロアはベドと村へ下りた。昨日まで道端にあった干し藁が、石倉の裏へ移されている。畑の境で足が止まる老夫婦は、収穫していない豆を気にしていた。ベドは畑を捨てろとは言わず、豆の実り具合を確かめてから、運べるだけ収めるための袋を借りた。
老夫婦の家で、ロアは壁に吊るされた小さな鈴を見つけた。孫が生まれた日に鳴らしたものだという。避難先へ持って行くか尋ねると、夫婦は互いの顔を見て笑った。大切なものは多く、袋は小さい。ロアは鈴を藁で包んで荷に入れ、代わりに錆びた農具を一つ置いていくよう勧めた。老人はその農具を惜しみながらも、鈴を手に握って頷いた。
昼過ぎ、見張り台から四人組は見えなかった。代わりに、村の小さな橋を渡っていく牛車が一台あった。車輪が石にはまり、後ろから押した少年の靴が川へ落ちた。兵たちは牛車を助け、靴を岸の枝で拾った。少年は靴を胸へ抱えたまま笑った。
砦に戻ると、レシュは防衛線を前へ伸ばす案を退けた。境界の向こうへ兵は出られず、渡れない場所で囲まれれば村の者だけが取り残される。使える道の幅と荷車の数こそ、今は兵力より確かな数字だった。
夜になって村長が二軒の名前を書き足した。避難すると約束したわけではない。それでも困ったとき声をかける相手が決まり、名簿の白い部分が一つ減った。レシュはそれを灯の下で確かめ、判を押した。




