水車の番人
東の谷にある水車は、古い橋と一緒に造られた。水車番の老婆ラウネは同じ歯車を直し、歯が欠けるたびに木片を削っては差し込んできた。谷の粉挽き小屋へは、森の集落から麦が集まる。
昼前、森の方から赤目狼の遠吠えが聞こえた。いつもなら三度続く声が今日は一度しか鳴らない。ラウネは戸を閉めたが、水車を止めなかった。止めれば明朝のパンが焼けなくなる。
息子のボルが材木を抱えて戻り、谷の上の見張り台が空になったと言った。斥候ネインが城へ呼ばれたのだ。普段そこにいる者がいなくなるだけで、森はずいぶん近くに感じられる。
「橋の向こうの畑はどうする」
「収穫の終わったところから束ねるさ」
ボルは言ったが、ラウネは首を振った。見張りがいない日に若者をまとめて橋の向こうへ出すわけにはいかない。麦袋を三つ減らしても、まず子供たちに川辺を離れさせることにした。
夕方、小屋へ人間の旅芸人が寄った。向こう岸で道を誤り、日が暮れる前に宿へ着きたいという。ラウネは水車の音で聞き取りにくい言葉を二度聞き返し、近道ではなく安全な回り道を教えた。
旅芸人は代金の代わりに薄い銅板を差し出した。遠い町の広場を描いた土産物だった。ラウネは受け取らず、孫への歌を一つ頼んだ。男は水車の前で、北国の冬を越す鳥の歌を歌った。
水車の羽根を止めないためには、夜中にも一度、軸の油を見なければならない。ラウネが若かった頃は夫と交代で見たが、今はボルが継いだ。夫の使っていた真鍮の油差しだけは、手に馴染むからと捨てずにいる。小屋の戸には、代々の水車番が刻んだ背比べの傷が残っていた。
夜、ボルは橋の両端に灯をともした。狼も旅人も通る道であることは、昨日と変わらない。それでもラウネは、余った麦を一袋だけ小屋の奥へ移した。何かあったとき、最初に持ち出す袋だった。




