城へ続く道
東の砦からの書状を受け取った書記官イセラは、謁見の間へ急いだ。剣の男は村の少年を助け、そのあと城へ続く道を尋ねたという。護衛長ダルムは先に報告を読み、眉間に深い皺を寄せた。
魔王ヴァルゼンは少年が無事だったことを確かめた。膝に軽い擦り傷があるだけだと聞くと、セフィに薬を届けさせるよう頼んだ。ダルムはそんなことより勇者の進路が重要だと言いかけ、口を閉じた。
「進路は確かめよ。だが、あの子は今日、怖い思いをしたのだ」
魔王は穏やかに言った。城へ迫る敵を前にしても、村の子供の痛みを些細なことにはしたくなかった。
メルドは地図を広げた。石壁から城へ続く古い道はあるが、途中で魔族の領域をいくつも横切る。人間は進めても、城の兵は追撃できない場所が多い。
「砦の兵を呼び戻すか」
「村の避難が終わるまでは残す。見捨てるために砦を建てたのではない」
ヴァルゼンは答えた。ダルムには護衛の交代表を改めさせ、イセラには過去三度の戦いの記録を改めて揃えさせた。
ダルムは護衛の交代表を見て、夜番の間に休息を取れない兵がいることに気づいた。非常時だからと眠りを削れば、階段で足を滑らせる者が出る。彼は勤務を組み直し、交代の兵へ温かい食事を用意するよう厨房に頼んだ。勇者が明日来るのか、一月後に来るのかは分からない。だからこそ毎日の備えを、続けられる形にする必要があった。
地図の端には、城下の学校へ続く細い道も描かれていた。
謁見の間の扉が閉まると、静けさが戻った。遠くの食堂から皿の触れる音が聞こえる。魔王は扉を見つめ、城へ続く道を歩けない自分の足へ目を落とした。




