見張りの花
砦の裏に咲く白い花は、冬前になると一斉に下を向く。門番ユリはその花を折らないように水桶を運んだ。亡くなった母が植えたもので、毎年同じ場所に咲く。
夜、兵ロアが花のそばに座っていた。初めて勇者らしき一団を見たあと、眠れなくなったという。剣を背負う男は、兵を見つけていたのだろうか。自分たちが逃げたことを知っているのだろうか。
ユリは花の根元の土をほぐした。知らないことを考え続けても、答えは出ない。
「ベドが一緒だったんでしょう」
「はい。何も言わなくても、戻る道を示してくれました」
ロアは乾いた葉を指でちぎった。自分は槍を握ることしかできなかったと悔やんでいた。ユリは、戻ってきたから村へ知らせる時間ができたのだと言った。
それでも若い兵の顔は晴れなかった。怖かったことを認めるのは、剣を抜くことより難しいのかもしれない。
夜半、東の林で獣が吠えた。ユリは立ち上がり、見張り台へ登った。雲が低く、遠くの石壁は見えない。灯を置いた場所から、砦の門まで細い道が続いていた。
ベドは見張り台を降りると、ロアへ水筒を渡した。若い兵は礼を言って口をつけたが、ほとんど飲まなかった。喉が渇いていることにも気づけないほど緊張していたのだ。ベドは昔、自分も初めて国境で剣を見た晩に食事を残したと話した。怖くても翌日は来る。そのとき動けるよう、今夜は少しでも眠ることが大事だった。
油皿の縁には、母が刻んだ小さな花の模様が残っている。
ロアはその道へ水桶を運んだ。油皿の火が消えないよう、風よけの板も持ってきた。花は暗い土の上で、静かに首を垂れていた。




