影を踏む者
東の砦では、新しい巡回路が決められた。石壁に近い林まで見回り、境界の手前で引き返す道だ。隊長レシュは一度自分で歩き、危ない木の根と崩れた段差に印をつけた。
若い兵ロアは、地面に伸びる木の影を踏みながら進んだ。子供の頃、影を続けて踏めば疲れずに歩けると信じていた。今では迷信だと知っているが、足取りを揃えるには具合がよかった。
同行する年長の兵ベドは、ロアに足音を抑えるよう教えた。獣のいる森では、枝を踏む音一つで獲物が逃げる。人間の旅人を見つけても、まず身を隠して報告することになっている。
昼、二人は古い石橋の下で水を飲んだ。ベドは家族から送られた乾燥果実を分けた。息子が今年、城下の学校へ入る。文字を覚えたら手紙を書いてくれると約束したらしい。
「俺の妹も学校へ行きたいって言ってます」
ロアは笑った。父は農作業の手が足りないと反対しているが、本人は諦めていない。
帰り道、石壁の方から金属音がした。二人は足を止め、茂みへ身を寄せた。音は一度だけで、続かなかった。
ベドは休憩中、息子から届いた短い紙片を見せた。まだ文字になりきらない線が並んでいたが、最後の部分だけは自分の名を読めた。ロアはその紙を見て、妹に文字を教えようかと考えた。農作業が忙しいなら、夜に一文字ずつ覚えればよい。二人は乾燥果実を食べながら、砦へ帰ったらどんな手紙を書こうか話した。森の音を忘れたわけではなかった。
紙片の裏には、妻が描いた小さな花の絵もあった。
ベドは地面に耳をつけた。遠くから人の歩く振動が伝わってきた。二人では確かめきれない。彼はロアへ引き返す合図を送った。




