石壁の刻み
東の谷にある古い石壁は、硬皮獣の縄張りを越えた場所にあった。斥候ネインは遠くから壁を眺め、表面に新しい傷が刻まれていることに気づいた。刃でつけた細い線が五本、古い紋章の下へ伸びている。
同行した猟師ファロは、壁の近くへ行こうとして足を止めた。そこは魔族の領域の端だった。ネインも同じ場所で膝が動かなくなった。
二人は望遠鏡を使い、傷の位置を写し取った。剣で削ったように見えるが、壁そのものを壊そうとしたのか、何かの印を残したのかは分からない。
「あの男たちはここへ来たんですね」
「足跡がある。少なくとも四人のうち何人かは来た」
壁の向こうには細い通路が続き、木立の間へ消えていた。人間なら進める。二人は地図に空白を残して戻った。
帰り道、ファロは父が石窟で行方不明になった話をした。子供の頃は、父が境界の向こうへ行けたのではないかと思っていたという。ネインはその話を聞き、境界を越えられなかったから戻れなかったのかもしれないと答えた。
どちらも確かめる術はなかった。知らないことは、何年経ってもそのまま残ることがある。
ネインは石壁の刻みを写すとき、古い紋章の周囲に苔が生えていない部分があることに気づいた。誰かが指で擦ったようにも見える。ファロは石壁が雨に洗われた跡かもしれないと言った。二人は意見を争わず、両方を書き残した。城の者が地図と比べれば、別の手がかりになるかもしれない。境界の手前に立つだけでも、見落とせないものがある。
夕方、石壁の写しは砦へ届いた。古い紋章は誰のものか、城の書庫に問い合わせることになった。




