渡らない使者
城下の学校へ、北の宿場から手紙が届いた。差出人は羊毛商人オードで、橋の修理に携わった大工たちから、子供たちへ道を大切にしてほしいという伝言を預かっていた。
教師サラは生徒に手紙を読み聞かせた。子供たちは、橋のどこを直したか細かく尋ねた。サラは分かる範囲で説明し、分からない部分は次の便りを待とうと言った。
授業が終わると、一人の男の子が残った。
「橋が直ったら、僕たちは向こうへ行けますか」
サラはすぐ答えられなかった。魔族の子供が境界を越えられないことは、学校で何度も話している。男の子も知っている。ただ、橋を直した人々の話を聞いて、一度くらい渡ってみたくなったのだ。
「行けない場所を見に行く人はいるよ。戻った人に聞くことならできる」
サラは地図を一枚渡した。男の子はそこへ橋を描き加え、家へ持ち帰った。
夜、サラは夫メルドにこの話をした。メルドは苦い顔をしたが、子供を叱るべきだとは言わなかった。行けないことを知るのと、行きたいと思わないことは別だ。
少年が家へ帰ると、母親は橋の絵を見て嬉しそうに笑った。家族は白い丘の近くで暮らしており、少年はそこから先へ行けないことを幼い頃から知っていた。母親は、知らない土地の話を聞くのは悪くないと話した。少年はいつか人間の商人に会ったら、あの橋の向こうの町のことを尋ねたいと思った。絵の端には、まだ名前を知らない大きな森も描き足した。
地図の橋は、青く塗られた川をまっすぐ横切っていた。
二人は窓から学校の灯を見た。明日も子供たちは同じ道を通って来る。その道がどこへつながっているか、考えるのを止めさせたくはなかった。




