封を切る手
謁見の間では、三通の報告が同時に開かれた。西の井戸の水位、北の橋の補修、東の森で硬皮獣が倒された件。魔王ヴァルゼンはどれから読むべきか尋ね、執政官メルドは西の井戸を先に差し出した。
「人々が今日飲む水です」
ヴァルゼンは頷いた。井戸の修理は進んでいるが、雨が降らなければ水位は戻らない。谷から水を運ぶ手配をし、冬用の器を村へ回すよう命じた。
次に橋の報告を聞いた。人間の職人が魔族の板を使ったと知り、ヴァルゼンは工費の半分を出した者へ礼を伝えよと言った。領域の外の橋であっても、その橋を渡る者は城の市場へ来る。
最後に勇者の報告が読まれた。三年前より速くなった剣、硬い獣の皮を裂いた刃、四人組の足取り。ヴァルゼンは長く黙り、三度目の夜のことを思い出していた。
あの男は死んだ。少なくともヴァルゼンが知る死のすべてを経験した。それでも生きた者のように森を歩く。今の力がどこまで増えているのかは誰にも分からない。
「東の砦に、避難路の確認を続けさせよ」
命令はそれだけだった。敵がまだ何もしていない土地で、無理に兵を動かしては村人を怯えさせる。
メルドは会議の前に、謁見の間へ運ばれる椅子の数を減らしていた。多くの役人を呼べば、決定は遅くなるうえ、村の仕事から人を奪う。必要な担当者が来れば十分だった。ヴァルゼンは空いた椅子を見て理由を尋ねた。説明を聞くと、次の会議も同じようにしてよいと言った。ただし欠席した者の意見まで消さぬよう、書面を残すことを条件とした。
報告が片づくと、ヴァルゼンは西の井戸の図面をもう一度開いた。水を運ぶ道には橋が一つ必要だった。




