矢の届かぬ崖
東の森の崖上で、斥候ネインは人間の四人組を再び見つけた。距離は遠く、風が強い。彼らは崖下の獣を囲み、弓と槍で注意を引いていた。剣の男は最後まで前へ出なかった。
獣は岩の陰から飛び出し、槍の女へ突進した。剣の男がその前へ滑り込む。刃が光り、獣の脚が折れた。ネインは思わず息を呑んだ。三年前、同じ男は重い鎧を着た衛兵を避けきれなかったはずだ。
同行した猟師ファロは、獣の種類を見極めた。古い谷に棲む硬皮獣で、普通の刃なら皮膚で止まる。剣の男の一撃は、その硬い皮を裂いていた。
「誰にも言わずに帰りますか」
ファロが尋ねると、ネインは首を振った。
「見たことは伝える。ただ、勝手な言葉は足さない」
四人は獣を倒すと、その場で傷を洗い、荷をまとめた。剣の男は仲間の様子を確かめ、遠くの丘を指した。まるで何かを探しているようだった。
ネインは矢をつがえたが、射なかった。届かないからではない。四人はまだこちらに剣を向けていない。むやみに撃てば、今ある距離を血で埋めることになる。
ファロは獣の倒れた場所から谷の入口までの距離を測った。血の匂いに誘われて、別の獣が集まる可能性がある。村の狩人がそのことを知らずに入れば危ない。ネインは谷の手前へ警告の札を立てた。勇者の行き先を知るための調査だったが、村を守るための手間も増えた。二人は帰る前に、山道を塞いでいた倒木を少しだけ脇へ寄せた。
帰る道で、ファロは足元の枯れ枝を折った。ネインはそれを拾い、二つに分けた。いつか自分たちの矢が届く距離まで、あの男が来るかもしれない。そのとき何をするのかを、帰るまでに決めたかった。




