夕食の席
魔王城の食堂には、身分の高い者だけが座る席はない。見張りも料理人も、勤務を終えれば長机の空いた場所に腰を下ろす。食事の時間が重なると、鎧の音と食器の音で天井まで賑やかになる。
護衛長ダルムは焼き茸を皿に取り、隣の席を空けておいた。遅れて来た医官セフィがそこへ座る。彼女の袖には薬草の匂いが残っていた。
「また眠っていないのか」
「熱を出した子が三人。朝には下がったわ」
「それならいい」
ダルムは湯気の立つ椀を押しやった。セフィは礼を言い、ようやく肩の力を抜いた。
食堂の端では、若い兵たちが誰の畑の芋が大きいかで言い争っていた。城の外へ出られない兵もいる。城壁の内側で育った者にとって、畑の土は遠い故郷ではなく毎日の仕事だった。
やがて書記官イセラが入ってきた。いつもなら食堂で帳面を開くことはない。今夜は薄い紙束を抱え、ダルムの前で立ち止まった。
「東の森の報告を読んでほしいの」
ダルムは紙を受け取り、食堂の喧騒から少し離れた窓際へ移った。セフィもついて来る。
四名の武装者。先頭の男。右頬の傷。
「別人ではないのか」
「私もそう願っている」
セフィが紙を覗き込んだ。三年前、謁見の間で死体を確かめた医官は彼女だった。あのとき男の心臓は止まり、身体は冷え始めていた。疑いようのない死だった。
「陛下には?」
「まだ。確かめてからにしたい」
ダルムは食堂へ目を向けた。兵たちはまだ芋の話をしている。厨房の少女が笑い、誰かが椀を落として騒ぎになった。
「明朝、森の見張りを呼ぼう」
彼は書状を畳んだ。今夜の食堂から笑い声を消す理由は、まだない。
窓の外では、城壁の灯が一つずつともされていく。夜番の兵が交代し、いつもと変わらない夜が始まった。




