帳簿の余白
城の地下には、戦の記録より分厚い帳簿がある。穀物、薬草、衣服、井戸の修理、橋の補強。書記官イセラは毎朝それらを開き、赤い糸で綴じた紙片を必要な場所へ挟んでいく。
今日は南の詰所から届いた車輪修理の報告があった。代金は受け取らなかったとある。イセラは眉をひそめたが、隊長の名を見て笑った。グラドならそうするだろう。
その隣には東の森の報告が置かれていた。四名の武装者。魔獣の縄張りから帰還。死傷者なし。
イセラは古い帳簿を引き出した。そこには三年前の春、城に運ばれた剣の記録が残っている。刃は折れ、柄には人間の血がこびりついていた。魔王が自ら討った侵入者の持ち物だった。
あの日、イセラは謁見の間の床を洗うために呼ばれた。倒れた人間は息をしていなかった。医官が首筋を確かめ、胸の傷を調べ、死亡を記録した。翌朝には遺体も埋葬された。
その後、同じ顔の人間が再び現れた。
最初の報告は誤認として扱われた。だが二度目の討伐後にも、同じ顔、同じ剣を持つ者が現れた。三度目には、魔王がその首を自ら落とした。城内の医官と護衛が揃って死を確認している。
イセラはその記録に指を置いた。三度目の死亡欄には、いつもの整った筆跡で日付が記されている。死亡原因も、埋葬場所も、立会人の名もある。
「書記長、何をお探しですか」
助手の少年が戸口から声をかけた。
「古い数字の確認よ。西の備蓄を先に計算して」
少年が去ると、イセラは東の報告を帳簿の横に並べた。目撃者は先頭の人間について、短い一文を残していた。
右頬に古い傷がある。
三年前、三度目の遺体を洗ったとき、イセラはその傷を見ていた。傷の位置も長さも、忘れられるものではなかった。




